ダーク・ファンタジー小説

Re: バラと猫と女 -あたかも自分は無罪の様に- ( No.22 )
日時: 2013/05/25 08:38
名前: 利佐 (ID: LuHX0g2z)
参照: 本日は少々短いです。そして意味不明です。

【けいやく と じゃんまりあ】

 男は、暫く少女の白い髪と赤い眸を同じ目線で見てから立ち上がり、四方を見渡した。

 「凄惨なこったなあ……なんて乱雑な」

 言葉の意味は解らなかったけれど、きっと両親のことを言っているのだと思った。彼の目がそちらを向いているのだから。

 「どうして私はここに“居た”の」

 問うた相手はたばこの煙を吐き出してこういった。知らない人に話しかけたところで、もう少女は壊れていたのかもしれない。まだ希望を持っていたら、父の言いつけを守っただろうに。“死”をどういうことかと意識する者にとっては——特に子供にはショックな出来事だろう。精神への負担が大きすぎたのだ。だからもうどうにでもなれと。その絶望に追い打ちをかける様に。

 「死ぬためさ」


 幼かったあの頃はその意味が解らなかった。というのは少しだけ嘘になる。言葉の意味自体は理解していた。聞いたとたんにその言葉を脳みそが拒絶する。どうして私が死ななくちゃならないの。

「……死にたくない」

 元々小さい声をさらに震わせながら言ったものだから、その人はその言葉を聞き取ったかどうかも分からない。ただ、口許を三日月の様に緩ませながら「そうだよなァ。」
 座り込んでいる自分に近づいてしゃがみ込む。少し骨ばった大きな手が、少女の頭をくしゃくしゃと撫でた。かき混ぜるような撫で方は誰かに似ていた。ふいに男が口を開いた。

「死にたくないよなあ。だったらおいで」
「……え?」
「いいからおいで。自分を守りたいなら」

 唐突にそう言った男は、立ち上がり、元来た方へと歩き出した。座り込んだままの少女を置きざる様に。待っていてくれないのは、自分で選択しろということ? ……けれど、両親を置いていくことは出来ない。たとえ魂が宿っていない死体だとしても。どうしようかと迷う少女。不意に、何かを決意したように地面に膝をつき、胸の前で手を組み、何かを呟いた後、ぱっと男の歩いて行った方を見た。
 
 彼女は、

「……待って」

 男を信じることにした——