ダーク・ファンタジー小説

Re: バラと猫と女 -あたかも自分は無罪の様に- ( No.23 )
日時: 2013/05/25 10:03
名前: 利佐 (ID: LuHX0g2z)
参照: 絵画君が現れたようです。色々いじりました。きりしぐさん、ありがとうb

【がくぶち の なか の ひと】

 ——おじさんはだれなの?
 ——ん? ジャンマリアだけど。
 ——……わたしは、これからどうなるの?
 ——うーん、そうだなー……ま、取りあえず、俺の家族になったからには……

 それから今に至る。

 *

 拾われた少女は後に白猫と言う名をもらい、過去の名前は捨てた。
 白猫。頭髪の色に由来するのだ。猫……というのはどういう意味が含まれているのかはわからない。考えてみても解らない。もしかしたらジャンマリアの気まぐれなのかもしれないし。
 “あの人”だって、猫なのだし。
 昔のことを思い出し、そんなことを考えていた。突き当りのエレベーターまでもう少し。
 
「……あ」

 誰かが居るのに気が付いた。エレベーターの前に立って、歩いてくる気配は見えない。黒い上着に灰色のズボン、周りが鉄色の壁というのも相まって、中に来ている赤いシャツはまるで存在を主張しているように目立っている。

「……絵画さん?」

 立ち止まっている男は、白猫には目もくれずにどこか一点をみつめていた。目もくれずにというよりは、気が付いていない様だった。
 “絵画”白猫とは二つ分くらい背の高い、黒い髪をした男の人だ。もちろん彼も暗黒世論の、ジャンマリアの配下であり可憐な白猫と同じ——殺し屋だ。いつもは温厚な男で、人殺しなどしているようには見えない。だが、左目を覆う包帯と長い前髪からは、何故か邪気を感じる。
 

「……ん」

 時々こんな風に声を出して少し上をボーっと見つめている。その方向を白猫が見ても、鉄色の天井があるだけで特に変わった様子は見えなかった。何か見えているのだろうか。
 ……まさか、おばけかなにかうろついているのか。
 馬鹿げた妄想が頭をよぎったので思い切り頭を振って自分の考えをう振り切った。まさかまさか、この年になってお化けが怖いわけないだろう。そうは思っては居つつも白猫の脚はガクガクしていた。
 いや、だから怖いわけがないじゃないか……特に人殺しをするような者が。

「大変だね、白猫」
「わっ!?」

 突然に名前を呼ばれたので驚いてまぬけな声を上げ、あげくに尻餅をついた。名前を呼んだ絵画の顔を見上げるが、相変わらずこちらに目を向けてはいない。

「ん……お化け信じるのには年齢制限があるから大変だよねぇ……」

 図星を指されるのは初めてではないけれど、頭の中をまるきり読まれたようで少し怖かったから

「……ど、読心……術……?」

 思わずそんなことを聞いてしまった。すると絵画はクスッと笑った。相変わらず視線は一点から逸らされないが。

「違うよぉ。 君がボソボソ言ってたからさぁ」

 ヘラヘラと笑っている笑みが何だか怖いのだが。
 ていうか驚愕なのは。

「ボソボソ、言ってた……!?」
「うん、言ってたよぉ。……『まさかまさか、この年になってお化けが怖いわけない』って」

 心の中だけの声だったはずが外に漏れているとは。注意力が散漫としかられそうだ。だがまあ、絵画はそのような細かいことに興味を持たないので今その心配はないが。

「ん……まぁでも、額縁の外のことだもんね。俺とは無関係だもんねぇ」

 尻餅をついた白猫に手を貸すことも無く、絵画は通路を歩き出した。置き去りにされたような白猫は、ぽかん、と絵画のことを見ていた。