ダーク・ファンタジー小説

Re: バラと猫と女 -あたかも自分は無罪の様に- ( No.3 )
日時: 2013/04/28 23:06
名前: 利佐 (ID: LuHX0g2z)
参照: --いつの間にか独りになることなんて、良くあることじゃないですか。

 【白猫と飼い主】

 「私の名前は白猫。」

 彼女の薄い唇は、それだけ言うとまた口を閉じ、また黙り込んでしまった。
 何を思ったのか彼は立ち上がると彼女に近寄り、彼女の頭を覆っているフードをぱらりと取った。そのことに彼女は驚いたのか、ビクッと肩を跳ねさせる。そこには彼女の名前の理由を連想させるような色が広がっていた。
 私の名前は白猫——……ああ、そっか。そうだったそうだった。こいつの名前は白猫だ。俺が付けたんじゃないか。少しだけ屈むと、彼女の顎に手をかけて、御互いの目線を合わせるようにあげた。紅玉のような色をした丸くて光の無い目がこちらを向いている。まるで持ち主に見捨てられた人形の様な脆さを感じた。こいつが何人もの人を殺しているのか。何故か彼女に対して薄情な気分になってきて、嘲るような目で笑ってしまった。そのことに対して彼女は怯えたのか、小刻みに震えていた。勇気を出したように「あの……」と、小さな声を発する。「ああ、ごめん。」と微妙な反応をしてぱっと手を離す。

「白猫だっけか。」
「はい、白猫です。こんな頭だから……と、貴男が。」

 肩にかかるくらいまでの、いわゆるショートボブ。だがちゃんと手入れされている様子はなく、バサバサと毛先はいろんな方向を向いている。まるで子供の物乞いだ。だがその顔立ちは可愛らしく、造られたような美しさがあった。その眸の死んだような無気力さが、まだそれに拍車をかけているようでもあった。
 白い髪に赤い眸。彼女は所謂アルビノだった。その白い頭髪に由来して、彼が「白猫」と名付けられたのだった。もちろんのこと、コレは本名ではなく仕事をする時の「コードネーム」の様なものである。本名は彼女も知らなかった。——その名前は過去においてきてしまったのだから。

「……ああ、そうだったね。」

 「なつかしい。」と付け加えて、ふふ、と鼻で笑う。

「それじゃあ、白猫。お前の仕事は今日はもうないから、もう下がってよろしい。」

 彼にそう言われ「失礼します。」と、ひと言言うと、立ち上がって扉の方へ向かう。やっとこの緊張した空気の中から抜け出せる。まあ、彼があんな調子だから半分は和らげるのだが、いつも緊張するから終った時が一番ほっとする。この後、何もなければ私はさっさと眠れるんだ。

「あ、ちょっと待って白猫ォ……。」

 間延びした声が、背中まで響いてきた。嫌な予感が頭をよぎる。

「……はい。」
「12時間後にまたここに来てくれない? ……お前さんに聞きたいことがあるんだよねー。」

 何処から出したのか、彼は懐中時計を片手に持ち空に掲げながら眺めていた。予感が的中したようで。本当ならば「訊きたいこととは?」なんて言ってこの場で済ませてもいいもののそうもいかなかった。ボスの言うことは、ばかげていても絶対に何か意味があるのだから、口答えしたりしないで従わなければならない。だからいつでも白猫はこういう時、従順に“応える”

「……理解いたしました。……我らがジャンマリア。」

 彼は笑う。満足そうに。
 白猫は応える。貴男の為に。