ダーク・ファンタジー小説

Re: バラと猫と女 -あたかも自分は無罪の様に- ( No.30 )
日時: 2013/05/30 20:50
名前: 利佐 ◆njG8BYqcA. (ID: LuHX0g2z)
参照: 修学旅行から帰ってまいりました。劣化は気にしないでほしいな★


【 ひー いず あ ぺいてぃんぐ 】

「ふぅー……」


 白猫が去った後の部屋は彼女が入ってきた後とも前とも変わらない。人がいたとは思えないような微妙な温度だった。
 誰かが居ると周りの雰囲気だとかがその人次第でその場の雰囲気が変わるもの。だが奇妙なことに白猫に関してはその現象が起こらないのだ。その場に白猫と2人で居ても、まるで1人でいるのと変わらない様で。

「……」

 少し時間が経ってからポケットから煙草を取り出して咥え伸びをする。今まで固まっていた筋肉がほぐれていくのを感じる。ついでに骨が簿記簿記都凄まじく音を立てているのも感じる。そうしてデスクから新聞を取り出した。5月5日日曜日の新聞。5月6日月曜日の新聞。5月7日火曜日の新聞。その新聞を広げて真っ先に目に飛び込んでくるのはいつも同じように“殺人”が起きたという内容だ。そしてそれには何かしらの形で我らが組織、“暗黒世論”が関わっている。

「……警察もマスコミも未だ、俺たちの存在には未だ気が付いていない、かな」

 無感情な声が独り言を吐いた。そしてくしゃりと新聞を丸める。その瞬間、誰もいないはずの空間に1人の人間がこつ然と立っているのが目に入った。

「……おーいおいおい、居たのなら呼んでくれないと気付けないんだぜ?」

 細い体形にぼうっと無言で立つ姿。そのままだと影は薄そうに見えるが、不気味に左目を包帯で覆っており、黒いパーカーの中に着ているのは真っ赤なシャツで不思議と派手だった。
 反応してコクリと頷くその人物は、本日二人目の客人——絵画だった。

「ん……でも俺は呼んだんだけどねぇ……貴男の名前をね、ジャンマリア」
「あ? マジ。そりゃあ悪いね。ごめんごめん」
「……」

 それに対する返事はなく、ただじーっと瞳をみつめる。負けじという訳ではないが、その目をあえてこちらは逸らさない。先に逸らすのがボスではならないのだから。

「で、最近俺たち以外の殺し屋さんはどんな感じですか。はたまた警察の皆さんとかマスコミさんとか、その他にヤバそうな人は。居そう?」
「……」

 それから5秒ほど時間を置いて、絵画は薄い唇を開く。

「ん……他の人たちはまだ安全だね。俺たちのこと、気づいてないとこが多いみたいだよ……この辺の地方の警察は街中に訊き回ったり調査してる。探偵さんも使ってるね……マスコミはきっとはっきりとは知らないんじゃないかな」
「ふーん、そうなんだ。よくわかんなかった」
「ん……ごめんね」


 そう言いいながらも彼の言葉を解析するべく脳みそを回転させるジャンマリア。絵画のまったりした喋り方はまるで耳の穴から耳の穴を通り抜けていくようで気が抜けるのだ。
 だが、これほど精巧な情報屋もそうそういるものではないから——そのていのことで文句を言うのもくだらない。

「……ま、いいでしょう。ありがとよ」

 ジャンマリアがそう言うとまた絵画はコクリと頷く。ここで立ち去らないのは部下としては優秀なところだ。察したようで絵画は自ら問いだす。ここも永年ジャンマリアに仕えてきただけあって流石だ。
 ——果たしてこの仕事を彼は受けるのか。どうなのか。微妙なところだ。

「殺してほしい人が……いるんだよねえ?」

 何も知らない表情は、この後どんな顔をするかを想像すると少しだけ無垢に思えた。だがそれもすぐに終わるのだろうと思いながら平然としてジャンマリアは訊いた。

「そうだな。良くわかってらっしゃる」
「ん……誰?」

 にやり。
 ぺらりと一枚の白い紙を絵画に見せた。
 
「きいたことのある名前なんじゃねえのかなー……とか?」
「……誰、かな」

 少し間を置き、問いかける青年。いつもの様に間延びしていて通常とは少し違和感のある話し方。ああ、なんだ。お前はそんなことでは動じてくれないんだったかな。そんな彼をハッと一掃し、ジャンマリアはこういった。

「まさか、知らない分けねえだろうよ」

 立ち上がり彼の目の前まで歩いていくと、顔を近づけてこういった。そして彼に耳打ちした言葉。その時の絵画の表情にはあまり興味がなかったから、解らなかった。