ダーク・ファンタジー小説
- Re: バラと猫と女 -あたかも自分は無罪の様に- ( No.33 )
- 日時: 2013/06/02 20:39
- 名前: 利佐 ◆njG8BYqcA. (ID: LuHX0g2z)
- 参照: 絵画君や「あの子」に関しては身長設定を少し変えさせていただきました
【 おちゃめ 】
*
イライラしたような足取りはどんどん速くなっていって、行先も決めずにどんどんどこかへ向かって歩く。男は非常に不機嫌だった。腹を立てているのだ。わざとあの子供を自分の部屋まで寄こしたあいつに。
「……クソ野郎」
ほとんど感情の籠らない声がその場だけに発されて、そして周りの空気に解けて消えた。誰にも気付かれない内声が漏れた。男はそうつぶやくと八つ当たりでもするように地面を蹴りつける。地面に散らばる落葉が彼の靴にくっついたり蹴られた衝動で飛び散ったりしていた。
ザー……ザー……
突然にそんなか細い音が耳に飛び込んできて、そこで現実に引き戻される。雨が降っているのだ。自覚したとたんに雨音はさらに大きくなった。周りには同じような姿をした樹が不規則に並んでいた。どこかの林に入り込んでしまったようだ。
「……面倒クサ」
何処へ向かうかは彼自信も考えないで、ただ適当に歩きだした。行先など知ったことではない。あいつに拾われたあの日から自分の人生はなる様にしかならないから、だから今度もなる様になってしまえ、と。
「大丈夫ですか?」
訊き慣れない声と共に雨は男の身体を打ち付けなくなった。誰かが男を開いた傘に入れてやったからだ。突然のことに驚き、反射的に振り返ると其処に在ったのは優しく微笑むような顔だった。
自分か、少し年下くらいのまだ若い女性の様だった。深緑色のワンピースに白い長袖のカーディガンを着て、リボンのついた帽子をかぶっている。
「街に入るまでお送りしますよ」
スゥッと男の顔から表情が抜け落ちていく。そしてそんなロボットの様な表情で彼女の顔を見ていた。何も言葉を発しない男にみつめられる女性はきょとんとした表情で首をかしげて、次第に照れた様に頬を赤らめる。「あ、あの……?」なんて目をきょろきょろと泳がせてみたりして。そんな彼女を尻目に男は歩きだした。彼女の言葉は一切無視して。
「あっ! ねぇ、ちょっと!?」
無視されたのにもかかわらずに女性は叫ぶようにそう言って男を追いかける。
「ど、どこへ行かれるんですか!? そんなずぶ濡れで!」
「知らない。お前に言わない」
「風邪引きますよ!! お願いですから傘に入ってください!!」
「関係ない」
むきになることも無く男は適当に答える。たいして女性は必死に。男のことを心配している様子は崩れることもない。だが段々彼の足取りについていくのも険しくなったのか、息を洩らし始める。
「ちょ、と……まってくださっ」
そしてついには転んでしまった。
そこで男は立ち止まった。