ダーク・ファンタジー小説
- Re: バラと猫と女 -あたかも自分は無罪の様に- ( No.36 )
- 日時: 2013/06/07 21:48
- 名前: 利佐 ◆njG8BYqcA. (ID: LuHX0g2z)
- 参照: カメレオンさん現る
【 かめれおん 】
「いった……」
思い切り前のめりに転んだ女性。ワンピースは見事に泥に塗れ、彼女の顔にも泥は飛び散っていた。鬱陶しく着いてきた奴だったからかとてもいい気味で、思わず鼻で笑ってしまった。それに対して女性は気が付いた様子もない。体の痛みが強かったのか、何か言葉を発する余裕がないらしく無言で立ちあがった。
男は相変わらず彼女に背を向けたまま立ち止まっている。鬱陶しいのならばそのまま去ればいいものを何故動かないのか——もしもこの感が当たっているならばそろそろ、コイツの化けの皮を剥いでやりたくなったから。
「誰に餌付けされて尾行なんてしてるんだよ。この仮面女が」
「なんのことですか?」なんて困った顔に困った声色。この大物女優はまだしらばっくれるつもりらしい。腹立たしく思いつつも振り返って彼女のそばへ近寄る。しゃがみ込んで合わせた視線。今度はその頬が赤らむこともなく、段々口許がニヤ付いてくる。
「酷いじゃないですかぁ〜 餌付けって言い方はあんまりなんじゃないのぉ〜?」
先程までの控えめな口調が、活発で押しの強い雰囲気に変わっている。ザーザーという雨音も打ち負かす様な大声が森の中に響いていた。そして彼女は自らの顎に手をかけ、そこからべりべりと音を立てながら自分の顔をはがしていく。そしてそこには別の人物のわりと幼い感じの顔が在った。
「流石は黒猫とやら! 噂の通り口の悪い子なんだねっ」
悪口にも聞こえることをニッコリと言って見せる。何も考えてないのか。はたまた厭味か。どっちにしろどうでもいい。何なんだこの女。
ワンピースが汚れているのも差して気にしない。警戒することも無くつかつかと黒猫に歩み寄ると「アタシはやりたいことをやっただけよ」と、さらに微笑む。やりたいこと、なんて言われても嫌な予感しかしなかった。黒猫という名前を知っていると言うことはこいつは——
「……ジャンマリアの手の者だな?」
「あれ? ご存知なかった!? うっわー、同じ社員なのに。かっなし〜。黒猫クン、貴男酷いわ〜」
嘆いている様子も無く逆に喜んでいるような表情でそう言う訳のわからない女。そういう所はなんとなくジャンマリアに似ている気がして不気味だった。
「ま、自己紹介から始めさせてもらうわ! アタシ、カメレオン。よろしくね!」