ダーク・ファンタジー小説

Re: バラと猫と女 -あたかも自分は無罪の様に- ( No.52 )
日時: 2013/06/15 13:28
名前: 利佐# (ID: LuHX0g2z)
参照: 【 うつくしき さつじんとは 】

【 うつくしき さつじんとは 】

 体制を元に戻したサキはニコリと微笑み、そのままジャンマリアがいつも腰掛けている椅子へと腰を下ろした。良いのだろうか。こちらが少し焦りを感じているとサキは、
 
 「座ってたこと秘密にしてね? 僕が怒られちゃう」

 人差し指を立てて唇の前に持ってくるとそんな風にしてまた美しく笑った。
 サキ。背中を隠すほどの長くて白い髪にレモンイエローの瞳。肌もまた白く透明感がある。それはまるで白猫が成長した姿のようにも思える。其処までは女性的だが身長は恐らく175㎝はあり、一般的な女性としてはやや高め。だが服装が全身白のタキシードであることとテンポの良い立ち振る舞いは男性的。声もやや低めで中性的だ。だが一人称が「僕」ということからサキは男なのだろう。

 「今日はね、ジャンさん……あ、僕はジャンマリアのことをそう呼んでいるんだけどさ、ジャンさんが自分の仕事で居ないから僕が代わりに説明するよ」
 「……わかり、ました」

 声が相変わらずつっかえるがサキは其れには触れずに「うん、よろしくね」と微笑む。
 どくん、と鳴った心臓。
 たしか彼とは初対面。なのに何故か顔を見ていると胸に引っ掛かるものがある。ざわざわと気持ち悪い感覚が心を襲って——
 頭をぶるぶると振って無理やり我に返る。仕事に集中しなくてはいけないと理性の声に白猫の意識は戻ってくる。

 「それじゃ、皆が来るまで待っててもらえるかな」
 「……皆?」
 「うん。皆。君の先輩たちさ」

 どういうことだろうか。自分の任務の説明に何故他の殺し屋たちを呼ぶ必要があるのだろうか。刹那、脳裏に浮かんだ嫌な予感が二つ。額に嫌な汗が伝っているのが自分でもわかった。そのことに気付いていないのか、はたまた気づいても触れていないだけなのかサキはデスクから資料を取り出してざっぱに眺め始める。そこからは無言の空間だった。

 「……」
 「……」

 逃げ出したい。ココからは知って自分の部屋まで逃避したい。けれどそれがだめなことくらいわかっている。嫌な予感が当たりそうで足が重い。目にはもう涙がたまっていた。
 
 「白猫ってさぁー……」

 資料から目を離さずにサキが言った。だがその言葉の先はドアが開く音にかき消されて聴こえなかった。
 二人が同時にドアの方に目をやると、そちらにも二つの人影があった。
 
 「チャオッ よばれて飛び出てジャジャジャジャーンって感じで来ちゃったけど?」
 「……ん」

 1人は左目にかけて白い包帯を顔に巻いた男。もう一人ははつらつとした感じの金髪の女性だった。

 「というわけで白猫。彼らが今回の仕事でお世話になる殺し屋達さ——ご紹介しましょう。知ってると思うけど絵画とカメレオンだ」