ダーク・ファンタジー小説

Re: 昨日の消しゴム ( No.1 )
日時: 2012/06/28 20:55
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: OHW7LcLj)


「土我、あなた、人じゃないのでしょう?」

そう言ってほほ笑んだ、目の前の綺麗な友人が信じられなかった。
まるで人形のような長い金髪と、青い瞳を持った彼女がクスクスと悪戯めいて僕に笑う。こんな時でも、彼女の鈴の鳴るような声は艶やかに聞こえてしまうのだから不思議だ。

「そんな……ひどいな、ギーゼラったら。僕は人だよ。」ははは、と冗談めかして笑い返すと、ギーゼラは予想外に大まじめな顔になってしまった。
「いいえ、私には分かる。隠さなくてもいいのよ?私だって普通の人間じゃないから。私ね、実を言うと魔女なの。」そう言って、立ち上ったギーゼラが眩しそうに空を眺めた。右手を眉毛の上に添えて、遥か遠くを見ているようだった。「ねぇ、教えてよ。あなたのこと、私にぜーんぶ全部。あなたの生まれた時代、あなたの歩んできた歴史、あなたの見つめてきた世界。わたし、とっても知りたいの。」

「……それ、真面目に言ってる?それともジョーク?」
ギーゼラがひらりとこちらに振り向いた。彼女の白いスカートが、風にふわりと浮く。「もちろん真面目に決まってるわ。」

「そっか、まぁ暇だからいいけど。長くなるけどそれでもいいなら。」

そう言うと、ギーゼラは嬉しそうに無言で笑って、僕の隣に座った。風に流れて、彼女の香りがやんわりと僕を包んだ。小鳥の鳴き声が、どこかでこだましている。

それから長い間、平和な日差しと青い空に囲まれて、僕はつまらない昔話を始めた。どうせ気分屋のギーゼラのことだから、すぐに居眠りでも始めてしまうだろうと思っていたけれど、彼女は案外最後まで聞いていてくれたのだった。






————— 1938年、ドイツ軍ポーランド侵攻まであと一年のことでした。