ダーク・ファンタジー小説
- Re: 昨日の消しゴム ( No.17 )
- 日時: 2012/08/11 22:41
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: .pUthb6u)
「さぁ?」由雅はからからと笑った。「案外今夜が峠だったりして。どんな死に方をするんでしょうかねぇ。悶え苦しむんでしょうかね、それともポックリ逝っちゃうんでしょうかねー。」
「な……」可笑しそうに唇を歪める少女が、少し不気味に見えた。「なんという奴だ、人が死ぬかもしれないのに。なぜそんなに楽しそうに笑う。」
するとまるで人の話を聞いていない由雅は、くるりと向き直ると、真剣な顔つきで問うてきた。
「……で?もしも今日があなたにとっての最後だったら、何がしたいの、何を思うの、何を望むの?」
少し、声を低くして囁くように聞く。思わず目が合った、黒曜石の瞳には不思議な光が宿っている。
「別に。時が流れるのに任せる以外ないだろう。俺にはどうすることもできないのだから。」
「何か望まないの?本当の本当にこの世から永遠に存在できなくなってしまうかもしれないのに。」
「だから、」由雅の、黒く、刺し殺すような目線に耐えられず、顔を背ける。「望んだところで何も叶わないのだから、そんなことは虚しいだけだ。それに、俺に望みなどない。ああ、強いて言えば最後に何か美味いものでも食っておきたいかな。」
「っ、アッハハハハハハ!」由雅が急に大笑いし始めた。狂ったように両の手を叩きながら、甲高い声で。「何と無欲な!アハハ、やっぱり土我さんは面白い人です。そうだなぁ、私だったら、色んな鬼や妖獣に喧嘩をふっかけて、最後には宮廷のデブ女たちの寝床全部に放火して回ってやりたいです。うん、思いっきり悪い事したいわ。歴史に残るくらいの。」
チチチチチチチチチチ………
外で、鳥の鳴く声がした。庭に目を向けると陽はすっかり高くなっていた。
まずい。人が多くなる前に帰らなければ。
急いで着物の乱れを直して荷物を整えた。荷物って言ってもそれほどの量があるわけではないが。
「どーしたんですか。突然そんなに急いで。」由雅が俺の背中に話しかけた。
「じゃあな。俺は人が多くなる前に帰らなければならないんでな。」
ちょっと! と後ろで由雅の声がしたが構っているヒマはない。
外に出ると、水瓶を持った中年の女衆が小うるさく喋りながら歩いていた。高くなり始めた日の光が、その後ろ姿を燦々と照らし出している。どうやら、井戸はあっちの方向らしい。
それから、すっかり明るくなった大通りを避けて、できるだけ人目に付かない小道を進んだ。
