ダーク・ファンタジー小説
- Re: 昨日の消しゴム ( No.23 )
- 日時: 2012/12/22 14:47
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: geHdv8JL)
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暗い蔵の中でふと、リトが目を覚ますと目の前に見知らぬ人影が立っていた。黒い布袴姿の若い男で、裾から少し、赤の衵が見える。着ている衣服の豪華さとは対照に頭には冠など無く、長く灰色の髪は結いもせずに腰まで無造作に垂らされていた。
「だれ?」
すると男は感情の無い、低く冷たい声で答えた。「名乗らぬ奴には名乗らぬ。契約を果たしに来た。お前に憑く病の怪を取ってやろう。」
すっと、男の腕がリトの顔面に差し出された。驚いて男の手を見ると、掌の中央には緑色で、何やら文字が書いてあった。
「読め」男が囁いた。「さすれば怪は離れる。」
リトは困ったような表情をする。「えと、ごめんなさい。私文字読めないの。」
すると、男の呆れたようなため息が聞こえた。「お前は勘違いをしている。もう一度よく見ろ、そして感じたままを声と成せ。文字とはそういったものだろう。」
「……ふーん、そうなんだ。」
言われるがままに、リトは再度、男の掌を見つめる。絶対読めないのに、と思いつつ、何となく適当に発音してみた。
が、い、と、う、ぼ、う、こ、う、が、ま、
「なんだか恥ずかしいや。こんな感じでいいの?」窺うように聞くと、男はゆっくりと頷いた。
リトが発音すると同時に掌に書かれた緑色の文字は赤色に染まり、まるで溶けるかのようにゆっくりと、空気に消えていった。
「うわー!お兄さんの文字、すごいね!」感心して言うと、男は何も言わずに立ち上った。
「………朝まで眠れ。」
そう言うと男はリトに背を向け、蔵の外、洞々と深まる外の闇へと姿を消していった。
一人、蔵に残されたリトはどうしてか、とても眠くなった。このまま起きていて、土我に今の不思議な男の話をしてやりたかったが、あまりにも眠すぎて、到底無理そうだ。
いいや。どうせ土我は私がまだ起きていたら怒るだけだろうし。
明日の朝にでも話してあげることにしよう。