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ダーク・ファンタジー小説
- Re: 昨日の消しゴム ( No.24 )
- 日時: 2012/12/15 17:56
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: geHdv8JL)
◇
「……はぁ。」
ため息をつくと、黒天の夜空に、吐いた息が白く映った。
全身が凍るように冷たい。浴びた飛沫の匂いに思わずむせ返った。
「やっぱり、あなただったんですね。土我さん。」
ジャリ、と目の前の砂利を踏む足音が遠くから迫ってくる。それと同時に、自分の意識も少しずつ、少しずつ薄れていくのが分かった。
身体は嫌と言う程冷たさを訴えているのに、意識だけが熱でも出ているみたいに火照っている。……どうにも、立ち上がる気が失せてしまったのでそのまま地に寝転がっていた。
「……違う。」
「八人。土我さんは八人やりました。」ジャリ、と最後の足音が止んだ。目の前に現れた女は、由雅だった。「罪人でも、その命はやはり人と同じものです。あなたの罪は一生消えない。あなたは死ぬまで人殺しだ。」
さらさらと、背後の小川が綺麗な音を立てて流れている。「どうとでも言え。」どうしてお前がここに居るんだ、と心のなかで毒づいた。
「まぁ結構です。それで、七日目の入れ墨は土我さんが入れられましたよね。そして、」由雅が着物の右袖をまくし上げた。右腕の中程に、八匹の蛇の絡みついた模様があった。「ほらこの通り、八日目の入れ墨はこの私が入れられましたとさ。覗き見してたらこの通りですよ、全くツイてないわ。」
「お前も俺も不運だったな。」どうした訳か、眠くて眠くて舌が回らない。「眠い。放っておいてくれ。」
「やがて夜が明けます。ここに居たら人に見られますよ、血まみれなのに。」
「……放っておいてくれ。眠い。眠いのだ。」
それを最後に、俺の意識は綺麗に途絶えた。
その晩見た夢は、どうしてかとてもいい夢だった気がする。
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