ダーク・ファンタジー小説

Re: 昨日の消しゴム ( No.29 )
日時: 2013/01/01 02:48
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: geHdv8JL)








 「まぁ。」
 ギーゼラが嬉しそうに驚きの表情を浮かべた。「やっぱり土我って面白い人だったのね!」

 「お、面白い?」
 ここまで話終わって、その感想が面白い、の一言とはやはりギーゼラはタダモノではない。半ば呆れながら、何が面白いのかと聞き返した。

 「だって、こんな話してくれる人はそうそう世界中どこを探したって居ないわよ。やっぱり私の人を見る目は確かだったんだわ。」ギーゼラは、そう誇らしげに言った。
 「はぁ……。」
 「あ、フランク!」

 ギーゼラはそう一声叫ぶと、街道の曲がり角からスタスタ気取った風に歩いてくる人影に向かって手を振った。手を振られたその人物は、それに応えるように早足になってこちらへ向かってくる。

 「ああ、フランクじゃないか。」
 僕はこのフランクという冗長な男がいまいち苦手だった。僕らとたまに会う、満州人の張という友人も居るのだが、彼は思いっきりフランクのことを目の敵にする勢いで嫌っていた。二人が出会うと、大抵喧嘩になる。それでも、仲がいいと言えば仲がいいの分類に入る感じの、不思議な友人関係だった。

 「やーあ、ギーゼラ!今日も一等星の如く輝かんばかりの美しさだね!」
 「彼はいつもああなのよ。」ギーゼラが、少し呆れ気味に僕の耳元でそっと囁いた。けれど、どこか声音は嬉しそうだった。

 「おおっと?隣に居るのは〜〜ドガ!だろ!」
 「そうだけど。」
 やはりこの能天気な男にはついていけない。

 「今ね、土我から彼の昔話を聞いていたのよ。ねぇ、土我。」
 「ほーぅ、そりゃあ俺も是非とも聞きたいねぇ。どうだい、この優雅な波打ちの音をバックミュージックに、三人で共に夜を明かさないかい!?」

 「アハハ、それは妙案。でも僕は、お断りかな。」
 「え〜〜何でだい。」
 「もう良い子は寝る時間なんだ。じゃあね。」

 そう言って、この面倒くさい友人の脇をすり抜けた。後ろでギーゼラが非難がましくブーブー言っていたが、そんなのもう気にしない。どうせフランクが来た時点で、彼女の興味はとっくのとうに彼に移っているに違いないのだから。

  
  それに、僕も少し、過去を清算する時間が欲しかった。