ダーク・ファンタジー小説
- Re: Almagest ( No.3 )
- 日時: 2013/05/30 23:27
- 名前: 4Q* ◆NmZ8vOfBkw (ID: Rts1yFTc)
1. Universe Zeros
「──こうして連邦に反する惑星はまた一つ宇宙の塵となったのだ!」
液晶から流れるプロパガンダじみた放送。連邦民主放送局と言うテレビ局の放送らしいが、もはや宗教の一角の様なものだ。自分に反する考えを徹底的に駆逐し、消し去り、その行いを正義と主張し、それで得た静謐を平和だと思っている。所詮、連邦というのは頭足らずの奴しか居ないものだと俺は思っている。
「マスター、コーヒーを頼む」
「あんた、良く飲むね。もうこれで6杯目だよ」
うんざりしていた。毎日カフェに来て大きな液晶モニターを見てみればそこに写し出されるのは連邦のプロパガンダ。
この前も連邦に反旗を翻し、かつて連邦から独立した惑星が圧倒的な軍事力で潰されてしまった。最近、そんなニュースしか聞かない。
ここまで狂っている惑星、国家は史実の中でも存在しない。飽くまでも反する者を鎮めるのはその国家の内側のみであった筈だ。しかし、連邦は広大な銀河の主導権を掌握したと共に、巨大な軍事力と共に手に入れた権力で宇宙に浮かぶ反連邦主義を様々な方法で苦しめている。
かつて連邦も宇宙開拓の先駆者である企業の集まりであった。技術力が転じて大きな力となり、今に至る。
宇宙開拓初期は時代の先駆者として皆の憧れであり、皆の目標であった。
強大な権力が全てを腐らせてしまった。もはや、内部から腐敗した連邦は恐怖の具現化でしかない。
宇宙は大きな力に屈するかと思われていた。ただ、少なくとも俺はそう思っていない。
「コーヒーの金、別に良いぞ」
「ツケは嫌いなもんでね」俺は煙草の匂いが充満するカフェの机にコーヒー代の小銭を置き、マスターに背中を向けてその場から後にした。一歩一歩入り口に向かっていき、その間にも連邦の映像は俺の聴覚に何かを伝えていた。
靴が立てる足音すら反芻するほど、辺りは静寂に満ちていた。
時計を確認してみると針は23時を差している。大体の人間は就寝の準備をする時間帯、外を出歩いている人間はそう居るものではない。
靴が立てる足音が脳内に響き渡る。珍しい空間だ、そう小言を呟きながら宇宙港の方向に爪先を向けて歩き出す。
歩く度に眠気が瞼を襲う。ここ最近、ろくに眠っていない反動がついに来たようだ。
眠気に襲われながら宇宙港の入り口にICカードを翳し、ゆっくりと開いたドアの隙間から見える自分の宇宙船に軽い挨拶をする。
サイン2。自ら設計図を書いた小型宇宙船で、搭乗人数はおおよそ4人。戦闘を重視して作られたこの宇宙船は様々な闘いを勝ち抜いてきた英雄だ。
俺が資金を貯めて購入した高価な荷電粒子砲を装備しており、普通の宇宙船ではあまり付いている事のない亜光速粒子砲も装備してある。
言ってしまえば飛ぶ要塞だ。俺はこの宇宙船に異常な額の投資を続けてきた。
自分の息子のような物だ。愛着心が沸かないはずが無い。
「なんだ、来てたのか」横から声が聞こえて、顔を向けてみるとそこにはこの船の整備士を担当しているマックス・ボーデンの姿があった。相変わらずの汚れた作業服に、手には錆びたスパナが持たれている。
「ああ、ちょいと挨拶にな」
「いつ出発するんだ?エンジンと放射線シールドのメンテナンスは終わったからいつでも銀河に飛べるぜ」マックスはまるで宇宙船の整備は俺に任せてくれ、と言わんばかりの笑みを浮かべながらそう言う。
「そりゃ良い。だけど、ちょっと待っててくれ、昔の友人に用があるんだ」
「あー、そうか。じゃあ少し仮眠を取ってくる」
「良い夢を」
昔の友人。今、何をしているかは分からない。だが、あっちの方から連絡が来た。まさか来るとは思っていなかった。
同じ宇宙船を動かす者として、彼は俺と正反対だった。狂ったように銀河を飛び回り、その度に宇宙船を塵にしていき、挙げ句の果てに連邦から追われる身となり、隠居しているという。
「会えると良いんだが」
彼はバーに居るらしい。バーはここからそう遠くない。歓楽街の路地にあるバーにわざわざ呼び出すんだから、きっと重要な話なんだろう。俺はそう思っていた。
歩き続け、歓楽街の入り口に辿り着く。時間も時間だが、歓楽街というのはどこの惑星でも眠らないものだ。相変わらず喧騒な場所で、俺には相性が悪い。
周りを見渡してみると、色んな人間が居る。強面な男も居れば、押したら消えてしまいそうなか弱そうな女も居る。様々な人種が入り混じる場所でもあるこの歓楽街に、俺は呼び出されている。
喧騒から離れた一つの路地。人が二人並ぶのがやっとな狭さであるこの長い道に、目的のバーはある。
腐った匂いが辺りに充満している。汚い場所だ、と毒を吐きながら歩き、バーのドアを静かに開けた。鈴の音が、小さく鳴り響いた。
「ようこそ、ミスター・ダンテ」手を広げてこちらを見ている“彼”は、昔と変わっていなかった。“彼”以外に人の姿はなく、バーはバラード調の音楽が流れている以外に音は無かった。
「変わってないな、シン。まだ続けてるのか、宇宙船狩り」
「ああ、あれなら辞めたよ。連邦警察に危うく心臓を取られる所でね、危ない仕事からはもう足を洗った、と言っても今やってる仕事も充分危ないんだがな」シン。それ以上の事は名乗らない冷徹な男だが、俺はこいつとやけに仲が良い。だが、俺はこいつのやっている事は認めようとは思わない。
「それで、俺を呼んだ理由は?俺が歓楽街嫌いなのを知ってるだろ、何故呼んだ」まるで狼が山羊を捉えるように俺は睨みを効かせた。しかし、この男は怯えるどころか寧ろ喜んでいる。
「あんた、狙われてるよ」
「何?誰に狙われてるんだ、連邦か?」
「いんや、違うな。賞金稼ぎのクズ共に狙われてる。賞金をかけられてるんだ、お前を妬む誰かさんにな」
意味が分からなかった。
確かに俺は今まで仕事として数々の宇宙船を撃墜し、時には人を殺めた。
しかし、無関係な人間と無実の人間には必ず手を出さないルールは自分の中で決めている。
だとしたら、俺のせいで立場が危うい何者かの仕業になるはずだ、一体誰が俺を陥れようとしているのか。
「賞金稼ぎ共、ここに来るぜ」シンは飄々に語り出す。まるで自分は関係が無いかのように。
「呼び出したのも、罠か」
「誤解するなよ、俺だってやりたくてやった訳じゃない。あそこで断ったら、暴漢共に腕をもぎ取られて犬に食われてた所さ」いかにも他人事のように話す。しかし、俺はそこまで怒ってはいなかった。かつての友人という補正がかかっているせいもある。だが、どこか憎めなかった。複雑な心境の中、後ろで鈴の音が鳴る。どうやら、賞金稼ぎ共が来たようだ。
「俺を恨むなよ、キャプテン・ダンテ。パイロットってのは、常に妬まれてる存在なんだ、分かるか?」
「いや、分からんな」俺は振り向き、懐に潜ませてある.357マグナムに手を当てる。いざとなればこれを取り出して肝臓目掛けて引き金を引くまでだ。
予想通り俺を捕らえようとのこのこやってきたガタイの良い賞金稼ぎが3人。どれも巨体だが、俺の相手ではない。
とっくのとうにシンはどこかへ逃げ、もう戦うしかないのだろう。俺も出来る事ならこの場から消え去りたいが、あの野郎、唯一の逃げ場である裏口のドアの鍵を閉めやがった。本気で俺を殺そうとしている。
「坊主、悪いがお前の首、俺が貰うぜ」目の前にそそり立つ巨体の賞金稼ぎの男がそう言った。
「ああ、そうかよ」
その言葉と共に.357マグナムを取り出して、しっかりと握って引き金を引く。.357マグナム弾が男の肝臓を綺麗に貫通し、その後に鮮血が噴き出す。まるで、絵の具の入った箱を落としたように。
「簡単に人一人殺しやがって、この野郎、ぶっ殺してやる!」机に置かれていた空のビール瓶を手に取り、もう一人の男は鬼の形相で覆いかぶさってくる。
しかし、あれだけ体は大きい。熊のような体のプレスを横に避け、横腹に蹴りを入れて後ろに下がる。ただでさえ狭いバーの中、二人も来られては不利だ。
周りに使える物がないか見渡す。棒に紙切れ、割れたコップ…こいつらを鎮める事のできる道具はない。
「お前ら、レーザーは見たことあるか?」俺は賞金稼ぎ達に問いかける。そして、答えを聞こうともせずにレーザー拳銃を取り出して二発、賞金稼ぎの頭に撃ち込んだ。
「弾が高いからあまり使いたくなかったがこれはやっぱり面白い代物だ、暴漢を灰にする武器なんて早々無いぞ」
レーザーを撃ち込まれた賞金稼ぎの頭は灰となり、もはや人間として機能していない。
このバーのオブジェクトの様にその場に倒れ込んだ二人の賞金稼ぎの死体。よく見ると何か封筒のようなものを持っている。座り込み、男達から封筒を取り出して中身を拝見する。
「ほお、『ダンテ・ヘリオロッセ 10,000,000IUCの賞金』ねえ…俺も高くなったもんだ」
馬鹿馬鹿しい、ため息を漏らしながらマックスに電話をかける。もちろん、この死体を早急に捨てる為の相談だ。