ダーク・ファンタジー小説

Re: 陽炎 ( No.2 )
日時: 2013/06/30 11:11
名前: 王様 ◆qEUaErayeY (ID: Jr1Q7MLw)

 『ふぅ。』

 窓の外から流れていく景色を見て、僕は小さくため息をついた。

 言うまでもなく、窓の外から見えるのは、僕には見たこともない、未知の景色だった。
 辺り一面は田畑だらけ。前に住んでいた土地とは、まるっきり違っていた。
 「ほら、海が見えてきたよ。」助手席にいる母さんが口を開いた。
 前の家の近くにも、そういえば海があった。『海?』僕はそう言って、正面の窓から外を見た。
 「前の家の近くの海と、よく似てるだろ。雰囲気とかが。」父さんが言った。そう言うとおり確かに似ていた。そういえば、小学生の時は海で優香とはよく遊んでいたんだっけ....。

 ....夕日に照らされる海の景色の中に、あの時の光景が見えた。


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 「え....。」
 優香の表情は驚いていた。
 彼女はいつもなら冗談だと思って笑ってしまうだろうが、僕のこんな真剣な顔を見て察したのだろうか、急に泣き出してしまった。いつも笑っている彼女が号泣する姿は、とても新鮮だった。

 『田舎に引っ越す事になったんだ。優香が聞くと驚くだろうから、今まで言えなかった。ごめん。』
 一々言いたくもない泥みたいな言葉を、脳内から口に出す。それが、僕の胸を締めつける。

 「待ってよ!あと一日でもいいから!!お願いだからどこにも行かないでよ!!!」

 彼女のその必死な顔を見る度、本当にもう二度と会えないんだな、と心から思わされた。