ダーク・ファンタジー小説

Re: 陽炎 ( No.3 )
日時: 2013/06/25 03:02
名前: 王様 ◆qEUaErayeY (ID: RXE99ePl)

 優香と出会ったのは、今日のように、陽炎が見えるくらいの暑い夏の日だった。

 その日は夏休み真っ盛りの時期で、時間を持て余していた僕は、親の友達の誘いで海へバーベキューへと繰り出していた。そしてその日は気温が40度近い猛暑日で、海にはやはり人が大勢いた。
 考えてみれば、その日に彼女に会えたことは奇跡なのかもしれない。あの日僕が海に居なければ、僕等は出会ってすらいなかったのだろうから。

 「おい、人混みに紛れるんじゃないぞ。」父さんが言った。
 全く....さっきから何度も聞いてるよその言葉....。『わかってるって。いつまでも俺をガキとして見すぎだよ。』
 この時の僕は、自分ではガキじゃないと思ってても、他人から見れば完全にガキだった。

 まだ幼かった感性で、別れの痛みを知ることなど不可能だと、僕は後に知ることになる。
 だがそんな事気にもかけないで、この時の僕は馬鹿みたいにこの時を過ごしていた。

 だけど、今となってはそんな事も微笑ましく思えてしまうのだ。


     ■


 『優香がそう思う気持ちも分かるし、僕も離れ離れになりたくないよ。だけど、仕方ない運命なんだよ....。』
 僕は脳内から運命共同体などという言葉を投げ捨てた。

 「もういいよ。もういい....。」
 彼女は疲れたようにこう言って自分の家に入っていった。ご丁寧に、鍵まで掛けて。

 『.....はぁ。』
 初めて優香と会った日はあんなにも綺麗な一日だったのに、別れの時は、それと対称的だった。
 後ろで、子供達の無垢な話し声が聞こえてきた。
 ....一体、誰が間違っているのだろうか。

 僕はこの時、この問いに答えを出すことの難しさを、改めて感じるのだった。