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ダーク・ファンタジー小説
- Re: 陽炎 ( No.32 )
- 日時: 2013/08/13 06:55
- 名前: 王様 ◆qEUaErayeY (ID: VmcrDO2v)
『....そういえばさ、この辺に海ってあるんだっけ。』
憐舞がやっと、目線をこっちに戻してくれた。
「あるよ。明日にでも行ってみよっか。」美華は優しく声をかけた。「人気がないけどね。」美華はニッコリと笑って、憐舞を見る。
『あ、ありがとう。美華って優しいんだね。』
美華はそう言われると、顔を真っ赤にした。暗闇の中で、二人の距離が少し離れているから良かったようなものだが、もしも明るければ、心臓の音が憐舞に聞こえてしまうだろう。
家を出てから5分くらい歩いただろうか、やっと田んぼばかりの所を抜けて、ちらほら家が見えてきた。
『美華の家はあの辺にあるの?』
「うん。あと少し!ついでに家まで寄ってく?」
『いや、いいよ。なんか悪いし、早く帰らないと母さんに怒られそうだしさ。』
「わかった!私の家、あの家だから!」彼女は笑って指さす。その先には、とてつもなく大きな家が広がっていた。
『美華の家、大きいな。』思わず口からこぼれた。一瞬、会社か何かかと思った。それほど大きかった。
「今日は楽しかった。ありがとう!」
そう言う彼女の表情は、溌剌としていた。それは、出会った時とは全く違ったものだった。
「バイバイ!また明日!」彼女は笑って言った。
『また明日。』
楽しそうにしながら、彼女は僕に背を向けて歩いていった。
僕はここで暮らしていく。昔のことは心の底に閉まって、今の事だけを考えていくようにしよう。
____寂しさを紛らわすだけなら、誰でもいいはずだから。
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