ダーク・ファンタジー小説

Re: 陽炎 ( No.39 )
日時: 2013/08/04 12:04
名前: 王様 ◆qEUaErayeY (ID: sSv6cHIH)

 僕はこくりと頷く。
 なんだ、それがどうしたのか、と思った。
 
 「____あいつはさ、財閥の社長かなんかのご令嬢なんだよ。」
 『....は?』

 暗い部屋の中、義我は暗い声で言った。だが、それがどうかしたのか、という僕の気持ちは変わらなかった。
 それに、どうしてそんな金持ちがこんな田舎に住んでいるのか。家の大きさよりも、そっちの方に目がいった。
 ますます謎が深まっていくばかりだ。

 「美華の家はすごく厳しいらしくてね、いつも美華に勉強を強要させるんだ。美華自身もそれを嫌がっていて、いつも家を抜け出してはこんな遅くまで遊んでくるんだよ。」

 和也のその言葉を聞いた途端、何故か彼女の笑った顔を思い出した。
 だから僕と別れる時、彼女はあんなに楽しそうだったんだ。僕にとっては、些細な事だったのに。
 「俺と義我は耐えきれなくなってさ、美華をどこか遠くに連れて行こうって思ったんだけど、美華は“和也や義我に迷惑はかけられない”って言ってそれを断ったんだよ。それ以降、何度も誘ってるんだけどさ、現状維持って感じ。」

 なんでなんだろう。
 どうしてそんな家を出ていこうとはしなかったのだろう。
 二人も、美華のあの笑顔を守るためだったらなんでもするはずだ。迷惑がかかっても、二人にとっては軽いものだったに違いない。なのにどうして、彼女は荊の道を歩もうとするのか。

 窓の外に見える星空は、とても綺麗だった。

 ____彼女も、今この空を見ているのだろうか。