ダーク・ファンタジー小説

Re: 陽炎 ( No.59 )
日時: 2013/08/04 11:57
名前: 王様 ◆qEUaErayeY (ID: sSv6cHIH)

 その声のトーンから、触れてはいけないものに触れてしまった、と嫌でも思わされた。

 「____憐君には、わからないよね。この感情なんか。」

 美華はそう吐き捨て、自転車から降りた。そしてさっさと前に少し進んだ。
 確かにそうだ。きっと財閥のご令嬢ならそれなりの感情を持つだろう。だが、それをそれで割り切れると言えばそうではない。そんなもので割り切れるほど、人間という生き物は簡単ではない。
 きっと、彼女もそう思っているはずだ。

 『じゃあ、親にどう思ってんだよ。』
 自然と、厳しめの口調になる。だが彼女はそんなことには動じずに言った。

 「....もともとは私、あの家の子じゃないの。」
 彼女は自分の家を指差して言った。どういうことだ、と思った。
 「私のお母さんはさ、私が小さい頃に私を捨てて、今のお母様やお父様が私を拾って下さったの。その時の記憶を私は覚えていないけど、この話は今のお母様から聞いたの。」
 僕はこの時点で既に驚愕していた、こんな漫画みたいな事が実際にあったのかと。
 さらに彼女は昔話の絵本でも語るように、ゆっくりと僕に語っていった。