PR
ダーク・ファンタジー小説
- Re: 陽炎 ( No.69 )
- 日時: 2013/09/25 23:26
- 名前: 王様 ◆qEUaErayeY (ID: R/0A/CXj)
彼女のピアノを聞いている間、僕はずっと微かに微笑んでいた。
「終わりましたよ。」
彼女は僕を見て言った。
『上手いよ、こんなに上手なピアノ初めて聴いたよ!』僕は少し声を調子付かせた。
調子付かせたというのは事実だが、彼女のピアノが上手いのも事実である。だが、本当にそう思っていても彼女に届かぬことは百も承知だった。
「それが本当かどうかは分からないけど....、」
僕は驚いて彼女の方を見た。
その続きを早く聞きたいのだが、僕の心情と反して彼女はゆっくりと語っていった。
「____それが仮に嘘だとしても、そんなことを言われるのは、やっぱり元気が出るものですね。」
彼女はそう言って微笑んだ。
彼女の後ろの窓からは、優しい光が射し込んできた。それが彼女を優しく照らす。
僕はその時、心の中の何かが打ち解けたような気がした。雪のカタマリを太陽の優しい光が溶かすみたいに、ゆっくりとゆっくりと、それは溶かされていった。
「今日はありがとうございます。また、お邪魔して下さいね。」
『そういえば、名前、まだ聞いてませんでしたよね。』
彼女は少し驚いた表情を見せた。
『僕の名前は涼野憐舞です。あなたは?』
「私は、藤原早紀といいます。」
早紀、早紀か....。
どこかで聞いたことがあるのは、多分気のせいだろう。
『あとさ、敬語無しでいいよ。僕もそうするからさ。』
「分かった!!」
いきなり飛んできた言葉に、僕は少し首をかしげた。
PR