ダーク・ファンタジー小説

Re: 陽炎 ( No.75 )
日時: 2013/08/28 08:09
名前: 王様 ◆qEUaErayeY (ID: 0JVwtz5e)

 『早紀....。』
 「すっ、涼野君....。」

 目の前には、驚く早紀の姿があった。
 やはり、あのピアノの音は彼女が弾いていたものだったのか、と一瞬思ったが、冷静に考えてみると、どうしてピアノの音だけで彼女が弾いていたものだと分かったのだろうか。
 何故か、自分で自分が不思議に思えた。

 どうやらここは音楽室のようで、彼女以外にも同年代くらいの女子がちらほら居て、楽器を吹いたり弾いたりしている。多分部活で来ているのだろう。
 そして驚くべきなのは、その人達が僕を凝視していることだった。それを見て、僕ははっと我にかえった。
 大勢の人の前に晒されたくないと思っていたのに、どういう訳かいつの間にかそんな状況に陥っている。それも、自ら望んで。

 『あ...、また後でな....。』
 僕は早紀の返事すら待たずに、音楽室のドアを閉めた。そして、深いため息をついた。
 さっさとここから消え失せたいと思い、僕は今来た道を引き返すことにした。が、その時後ろでドアが開く音がした。

 「涼野君。」
 僕はすぐに振り返った。『部活なんだろ?抜けてきて大丈夫?』
 「大丈夫だよ。部長が居なくなっても、副部長が居るんだし。」

 『....ぶ、部長だったの?早紀って。』
 「言わなかったっけ?」
 彼女は、ゆっくりと伸びをした。
 「それよりさ、手続きとかそういうのしなくて良いの?」
 それを聞いた時、親を待たせていることを、やっと思い出した。『そうだった!あの、職員室ってどこ?』

 「職員室は....、あっちかな。」

 彼女は、僕が今行こうとした方角と、ちょうど真反対の方角を指差して言った。