ダーク・ファンタジー小説

Re: 陽炎 ( No.77 )
日時: 2013/09/27 01:40
名前: 王様 ◆qEUaErayeY (ID: NOPTuYCt)

 「あ、そっちか....。ありがとう」
 僕はすぐさま後ろを向いた。

 「じゃあ、また後でね」
 早紀は、ゆっくりと言った。僕は「あぁ」と無難に返したが、彼女は楽しそうに音楽室に入っていった。
 ____彼女が去った後、誰もいない廊下の真ん中で、僕は静かに笑った。
 そして、職員室に向かった。


 ガラガラとドアを開ける。教室のドアを開けるときの音はどの学校でも一緒なのに、その動作中では前の学校とは何かが決定的に違っていた。____それは、皆の視線が一斉に僕に向けられる、この緊張感からだろうか。
 「は、はじめまして、岡山から引っ越してきた涼野憐舞と言います。ここの土地は何かと分からない事が多いので、詳しく教えてもらえたら嬉しいです」
 どこを向いても誰かと目が合ってしまうので、しばらくは斜め下を向いていた。そんな状況で噛まずに言えた自分に、心の中でガッツポーズする。

 拍手が鳴り止んでもなおしばらく斜め下を向いていた僕に、信じられない担任の言葉が突き刺さった。

 「こちらは、生徒会長の藤原早紀さんです」

 その言葉が聞こえた途端、すぐさま彼女の方を向いた。彼女は起立していたので、すぐに見つかった。
 まぎれもない、早紀だったのだ。同じクラスだったのか、とも思った。
 だがこの場に於いて「早紀!」とは流石に言えず、僕は軽くお辞儀をしただけだった。
 彼女は、得意げに笑ってみせた。生徒会長である彼女は、いつもの彼女と全く変わりはなかった。吹奏楽部の部長である上に、まさか生徒会長までこなしているとは。

 「では、今日からここの新しい生徒になる涼野君の席はあそこですよ」
 担任はそう口にした。担任が指差した席は、なんと、早紀の隣の席だったのだ。