ダーク・ファンタジー小説

Re: 陽炎 ( No.91 )
日時: 2015/01/03 03:24
名前: 王様 ◆qEUaErayeY (ID: Yp4ltYEW)

 先生のピアノの音色に合わせて僕達は歌う。
 隣の早紀の裏声はとても綺麗で、それ以外の人の声はみんな一つになって聞こえた。
 曲目も同じだったし、何より、雰囲気がとても似ていたのだ。小学校の卒業式を思い出したのは言うまでもない。

「ねえ」

 音楽の授業が終わり、教室に帰る最中に後ろから声がした。
 振り向くと、早紀の笑顔が見えた。

「この辺の土地そんな知らないでしょ? 授業全部終わった後、色んな所案内してあげよっか?」

 手が震えた。
「いいねー。ありがたいけど、部活は大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。もう部活は9月まで休みだから」

 何故9月まで休みなのか、理由を問いただしてみた。
「知らなかった? もうあと数日で夏休みだよ」

 そういえば。
 もうそんな季節だったのか。思わず出た言葉に、彼女は面白がった。

「どうした? 生徒会長すっげー笑ってるけど」
「だって、だって…、この時期にこんなこと言う人いないから……」
 彼女は一人で笑っている。ちょっと笑いどころがよく分からないが、ツボに入ったようだ。
 早紀がこんなに笑うことはやはり珍しいのだろう。やけに人目をひいた。

 僕の目から見ても、銀縁の眼鏡をかけ、黒く長い髪をして、一切崩していない制服を着た、まるで絵に描いたような生徒会長の早紀という人間が、目の前で何でもないようなことで大笑いしているのを見て、ゾッとする気持ちもわかる。