ダーク・ファンタジー小説

Re: 陽炎 ◆銀賞ありがとう! ( No.95 )
日時: 2015/01/15 01:45
名前: をうさま ◆qEUaErayeY (ID: Yp4ltYEW)

「ちょっと……、話があってさ」
 彼女は一転シリアスな表情になり、小さく呟いた。
 言うまでもなく、この場には僕ら二人だけだ。僕の体温は再び急上昇していく。

 話はがらりと変わるが、小学生のころ、先生に「空気を読んでください」と怒られたことを未だ覚えている。その言葉を言われてからは、できるだけ場の空気を読むように生きてきたつもりだ。
 先生、教えてください。今はどうするのが正解なんですか!?

「ん、話って?」
 できるだけ、動揺を悟られないように自然に対応していく。

 彼女は、ここで言葉をつまらせた。
 僕は今まで早紀の顔を見れずにいたが、思わず目に入ったその顔色は、今まで見たこともないような桃色の頬をしていた。

「涼野くん……」
 彼女はゆっくりと語り始める。心臓が脈打つ音がしだいに大きくなっていく。


「涼野くん、吹奏楽部に入らない!?」


 ……バカだった。


「今ちょうど部員が不足しててさー、特にチューバとフル……、ん?」
 彼女は僕の顔を見るなり不思議そうな表情に変わり、一度話を止めた。どうやら僕は相当間の抜けた顔をしていたらしい。

「……あ、ごめん。吹奏楽部?」
 僕がお茶を濁しても、彼女は怪訝そうな表情のままだった。
 あの雰囲気は、どう見ても告白するタイミングだったと思うのだが、早紀は本当になにも気づいていないのだろうか。
 彼女の様子は全くもっていつも通りだ。……いや、そもそも、いつも通りというより、僕と彼女はまだ出会って二日しか経っていないはずだ。
 出会ってかなり時間が経った頃なら分かるが、僕達はお互いのことをまだほとんど何も解っていない。この状況は、それを告白するタイミングと捉えた僕が、勝手に一人で空回りしているだけだった。
 彼女にとっては、僕はまだ恋愛対象とすら見られていないということだ。