ダーク・ファンタジー小説

Re: ココロ 【オリキャラ募集中】 ( No.135 )
日時: 2013/01/17 19:03
名前: 優音 ◆XuYU1tsir. (ID: TQfzOaw7)

第十三話 追っている理由


研究所。

シンプルな部屋の真ん中にある机。
その上にカップが並んでいる。
御丁寧に人間兵器の前にもだ。

幽はホットミルクを一口飲んで顔をほころばせた。


「美味しい・・・」
「・・・ミルクを温めただけなのにな」


凪を実験室へと置いてきて、いつの間にか戻っていた彩女がそう応えた。


「最近ちゃんとしたもの食べてなかったしなぁ」
「幽博士・・途中で倒れたりしてたから・・」
「ブロック、堪忍な」


困ったように笑顔を浮かべた。


「それで・・話をしてもらおうか」
「ええよ。何から聞きたい?」


そう尋ねる幽に彩女は椅子に座って答える。


「そいつを追っている理由だな」


そいつ、と視線を向けたのはニコラス。
冷たい紫色の瞳が射抜く。
ビクリと肩を震わせるニコラスに、幽は微笑かけた。


「大丈夫。魔神さんはこう見えても優しいんやから」


なー、と彩女の方を向いて言った。
しかし、彩女はフンッと鼻をならすだけで答えはしない。


「まぁ・・僕らがこの子を追って来たのはな、僕の後輩たちが関係してんねん」
「貴様の後輩・・・?」
「僕は後輩って呼びたくないねんけどな」


苦笑しながら話を続ける。


「一応後輩ってことにしといて・・。僕が研究所から去ったのは知ってるよな」
「当たり前だ。貴様はこれからという大切な時期に姿を消した。研究所にあるはずの貴様の研究データは全て消去されていた。逃げたと結論付けたがな」


痛々しい視線が幽を射抜く。
しかし、それを気にせずに幽はうなづいて見せた。


「そう。僕が研究所を去った理由は後で話すやろ。僕が研究所を去ってから僕の研究所は後輩たちが使っとってん」
「貴様の下にいた奴らか」
「そう。僕の事をよく思ってなかったのか知らんねんけど、ちょっと失敗したんよ」
「何にだ?」
「データの消去に」


幽は表情を変えた。


「僕は後輩たちのデータも全て消したつもりやった。後輩の中には危ない実験とかもする子がおってな。僕がいなくなったら好き放題に出来るやろ?特に僕の後を継いだ後輩の子は一番危険やった」
「それならば何故クビにしなかったのだ」


眉をひそめながら彩女は尋ねた。
自分なら迷うことなくクビにしている。


「それが一度はクビにしたんよ。でも後輩の中でも彼に従う子が意外と多くてな。数十人が僕に彼を呼び戻せと訴えてきたんよ」
「・・・幽博士はとりあえず彼を呼び戻した」
「ハッ!後輩たちの訴えに恐怖を覚えたか」


見下すような笑みを彩女は作る。
その言葉に幽は首を横に振る。


「恐怖なんて覚えてない。今まで生きてきても、恐怖なんて感じたことはないで。恐怖よりも殺意を抱いて生きてきたからな」


幽の細められた瞳。
その瞳に、朽葉は吸い寄せられた。
瞳の中には恐怖なんて一つもない。
穏やかな顔で微笑んでいるときでさえ、あの博士は殺意を抱いている。


「話す戻すけど、彼を呼び寄せたすぐ後に僕は出ていったんよ。彼が僕の後を継ぐことは予想の範囲やったから全データを消去したんよ。彼が無謀で愚かなことをしないようにな」
「・・成る程な」


彩女は髪を撫で付けていた手を止めてうなづいた。


「消去し忘れたデータによってその後輩とやらは何かを行ったのだな」
「その通り。さすがは魔神さんやね」
「何か・・とは、何なのですか?」


口を挟んだのは朽葉。
隣にいるブロックの視線が痛い。
きっと、口をはさむなと、邪魔をするなと言いたいのだろう。


「人間兵器の製造や」


笑みを消して幽は言った。
予想の範囲だったのか、彩女は表情を変えていない。


「し、しかし・・人間兵器の製造には許可者でなければ違法に・・」
「そうや。でも彼らはやりよったんよ。許可者でもないくせに違法に手を染めた。そして僕が進めていた研究を間近で見ていた彼らは、自分たちの記憶を元に製造を開始した」


その口調は先ほどの気の抜けたような口調ではなかった。


「人間兵器を0から造り出す。それをあいつらはしたのだ」
「0から・・だと?人間を土台として使わないというのか」


ハッと彩女が笑った。


「それはもう人間兵器ではないだろう。人間の形をしたただの機械。我々とは根本的に違うではないか。機械には能力などインプットできない。阿呆だな」


今度は幽が笑った。
馬鹿にしたように笑う。


「何だ?」


彩女が眉をつりあげながら言う。
幽はまだ笑っているが、その顔色は悪い。


「ハハッ・・。何も分かっていない。僕がいう0は人間を土台として使わないことやない」


そういうと呼吸を整えてまっすぐに彩女を見つめた。


「母親の中から出てきたばかりの子供を使うことにしたんや」


そういうと彩女は立ち上がった。
衝撃的な発言。
朽葉も驚いている。

クスクスと幽は笑う。


「赤子は人間の姿を持ってる。しかも赤子からは能発達が活発や。0から人間兵器として造るには最高の材料やと思わへん?」