ダーク・ファンタジー小説

Re: ココロ 【オリキャラ募集中】 ( No.242 )
日時: 2013/09/16 15:05
名前: 優音 ◆XuYU1tsir. (ID: T3UB3n3H)

第五十八話 眠り


この世界は綺麗だね、って誰かが呟いた。
でも、それは嘘だと思う。

「教えてもらえますか」

目の前にいる人物に向かって言い放つ。
彼の足はもう使いものにならないだろう。
足の腱を切れば、人はもう歩くことは出来ない。
つまり、この場から彼が逃げ出すことはできない。

「この国で起こっていること…。これからこの国がしようとしていること…」
「…わ…わたしは…何も知らない」

震える声で言葉を紡ぐ。

「本当ですか…?」

必死に何度もうなづく。
その姿が哀れで…そして滑稽で…。
思わず微笑がもれた。

「分かりました。では…」

風が私の腕を纏う。
心地のいい柔らかさ。

「もうあなたに用はないです」

相手の顔色が青くなる。
目を見開き、恐怖に怯える。

「そんな顔をしないで下さい」

そっと跪いて、相手と目の高さをあわせる。
顔を両手で挟みこんで、穏やかに微笑を向ける。

「殺しはしません。大丈夫…。切られた足も痛くはないでしょう?」

子供をあやすように大丈夫、と繰り返す。

「“あの人”の大切な体を、汚すわけにはいきませんからね」

この体は借り物だから。

「大丈夫…。ただ、あなたは…」
















「眠ればいいのです」



穏やかな風が吹いた。
心地のいい、柔らかな風。
その風が彼を包み込む。
彼以外の人たちも、同じように風で包んで、甘い夢へと誘った。

「次に目覚めた時、あなたたちは何も覚えていませんよ」

彼が眠ったのを確認して、わたしはその場から離れた。
彼らが戻ってこなければ、探しに来るのは明らかだ。
その間に少しでも…。

「さて、“私”を覚えているでしょうか?皆さんは」

くす、と一人笑みをこぼした。