ダーク・ファンタジー小説

Re: ココロ 【オリキャラ募集中】 ( No.90 )
日時: 2012/10/08 21:45
名前: 優音 ◆XuYU1tsir. (ID: AKehFwYl)

第三十三話 その時


『母さん、母さん、何処行くの』


握られた右手が温かかった
私がそういうと母さんはこちらを見ずに答えた


『行けば分かるから』


子供の私と大人の母さんとでは歩調が違う過ぎたから、自然と引っ張られる形になってしまう
雪が積もっていて歩きにくかった
そのうえ雪も降っていた
だけど私は、なぜか不安になって急いで母さんの隣に並んだ
そっと見た母さんの横顔はやつれていた

私の父さんが死んだとき、貧しかった家はもっと貧しくなった
母さんはいつも疲れて帰って来た
私も手伝いをしようとしたけど、なにも出来ることはなかった


『母さん、母さん、寒い』


こんな我儘しかいえなくて、私は母さんの左手をギュッと握った
すると母さんはそうね、とだけつぶやいた


『・・・母さん?』
『着いたわ』


母さんが止まった
私も止まった
そこで目にしたのは、大きな木


『大きな木・・』
『あれは“千年樹”』
『“千年樹”?』


首をかしげると母さんはうなづいた
その樹に近づいていく
私もあわてて後を追った


『触ってご覧、凪』


母さんに習って私も手を置いた
うっすらと温かみを感じた
驚いて手を放すと、母さんはクスッと笑った


『驚いたの?』
『・・・うん』
『樹だって生きているのよ』


それにも驚いた
もう一度手を触れると、また温かかった
それが心地よかった


『・・凪』
『うん?』


母さんに呼ばれて私は顔を上げた
母さんは真剣な顔をしていた


『ここで待っていてくれないかな?』
『ここで?』
『うん』
『いいよ』


うなづくと、母さんは私に目線を合わせるためにかがんだ


『ありがとう。良い子ね』
『えへへ』


照れて笑うと、母さんは自分のマフラーを私に巻いた
母さんのぬくもりが残っていて温かかった


『うわぁ・・・』


母さんの匂いもあって、心地よかった


『寒いでしょうから・・これを』
『ありがとう』


母さんは私に背を向けた
そして去っていく
でも途中で足を止めた
そして振り向く
その時、母さんが振り向くのを生まれて始めてみた


その時、確かに母さんは私に言った


その時、確かに母さんは泣いていた



『ごめんね』


吹雪の中、かき消されたその言葉は、凪の耳には届かなかった









どんだけ待っても母さんは帰ってこなかった


『母さん・・早く』


千年樹にもたれかかって私はつぶやいた
少しでも温かみを求めて千年樹に抱きついた
温かかった
マフラーについた母さんの残り香が鼻をくすぶる
母さんに抱かれている気がして、嬉しかったし落ち着いた










母さんは来なかった



私はもうすぐ死ぬだろう
心臓が弱ってくる
それくらい私は分かる



どうして

どうして母さん


どうして帰ってこないの、母さん・・・





ドクンッ