ダーク・ファンタジー小説

Re: ウェルト戦記 ( No.1 )
日時: 2013/08/25 01:21
名前: ヒント (ID: QShSD58R)

Prologue

  全てが、赤に染まった。

 何が起こったのか分からない。

 音も、風も、香りも無い。

 視覚だけが生きている。

  他の感覚は死んでいる。

 さっきまで笑っていた×××が赤い液体の中に横たわっている。

 −−早く起きろよ、汚れるぞ。

 そう言おうとしたが、声が出ない。

  風が頬を撫でる。

 刺激臭が鼻を突く。

  誰かの足音が聞こえる。

  死んでいた感覚が戻ってきた。

  戻ってきた所で理解する。

 赤い液体は血で。

 刺激臭は血の臭いで。

 血は×××から流れているのだと。

  流れている血とは対照的に×××の顔は青白くなっていく。

 青白くなっていく顔にはさっきまでの笑みが貼りついてーー。

 違う。

 また、笑ったのだ。

 どうして?

 もうこの血の量なら絶対に助からないのに。

 自分がもっと早く動いていればまだ助かったかもしれないのに。

  それでも。

  どうして、笑える?

  ×××の目から光が消えた。

  その顔には今度こそ笑みが貼りついたままで−−。

  −−逝くな。

  その声も出てこない。

  ずっと聞こえていた足音が止まった。

  そちらを見る。

 足音の主は複数いた。

  何人いるのかは確かめない。

  ただこいつらの手に持っている物を見る。

  見た瞬間分かった。

 こいつらが×××を殺した。

 ×××は死んだ。

  殺したこいつらは生きている。

 ×××を助けられなかった自分も生きている。

 ×××は死ぬべきではないのに。

  こいつらと自分は生きているべきではないのに。

 もう×××はいない。

  死ぬべき者が生きている。

  生きているべき者が死んでいる。

  −−理不尽だ。

  世界は理不尽だ。

 だから、こんな理不尽な世界は全て−−。