ダーク・ファンタジー小説
- Re: ウェルト戦記(参照100ありがとうございます!) ( No.14 )
- 日時: 2013/10/03 19:14
- 名前: ヒント (ID: nWfEVdwx)
- 参照: 文法ミスを発見……修正しました
第四話
山賊達が拳や手に持ったサーベルをアルザに向けて振り下ろす。しかし、
「?!消えた?!!」
「ここだよ」
「え……、ぐあ!」
そこにアルザはおらず、山賊の一人の後ろにいた。そして、その山賊に掌底を叩き込む。
「な……、テメェ、いつの間に?!」
そう言った山賊が拳を振るが、今度は普通に躱す。そこから、がら空きになった山賊の腹に膝蹴りを入れる。
「がはっ」
蹴られた山賊が空気を吐き出し、倒れる。ここで一度、アルザは山賊達から距離をとった。ルースの分も含めて、倒した山賊は五人。残りは頭を含め、三人だった。
「こんのクソガキがぁ!ブチ殺す!!」
残った山賊の手下の一人が叫び、凶器を取り出す。その手に握られていたのは、リボルバー式の拳銃。それをアルザに向け、発砲した。しかし、弾丸はアルザに当たることなく、森の中へと消えていった。
弾丸は外れた訳ではなかった。むしろ、激昂していた割には、狙いは正確だった。だが、狙った的そのものが、初めから当たらないものだとしたら。
「な、なんだ、それ……。体が……黒くーー」
そう言って、撃った山賊は失禁しながら気絶した。
アルザの胴は、黒い霧の様なものーー『闇』になっていた。先ほどの弾丸はこの『闇』をすり抜けていったのだった。
「ひぃぃ、ば、ばけ……」
そこまで言って、もう片方の手下も気絶する。残った頭は気絶こそしなかったが、かなり狼狽えていた。
「そんな魔法、聞いたことねぇぞ……。まさか、『高位魔法』か?!!」
魔法には、大きく分けて三種類ある。『低位魔法』、『中位魔法』、『高位魔法』だ。位が高いほど、威力が高かったり、複雑な魔法が多い。
ちなみに、中位魔法以上の魔法を使える者を『魔導士』と呼ぶ。そして、魔導士の中でも、高位魔法を使える者はほんの一握りである。
アルザの高位魔法、『闇武者』は自身の体を『闇』に変える魔法である。それだけではなく、『闇』になった後、自身の影や他の物体の影と同化して、潜ることも可能だ。
頭の問いに対して、アルザは
「そうだけど」
と、短く答える。同時に、頭に向かって駆け出した。
それを見た頭が、懐から拳銃を取り出して発砲した。しかし、アルザは再び消える。否、『闇』となり、自身の影に潜る。そのまま、頭の影を伝って背後に回り込み、拳を構える。
「しまっ……」
頭が振り向くが、すでに遅い。目の前に迫ったアルザの拳が、容赦無く顔面に叩き込まれ、勢い良く殴り飛ばされた。
「こっちは全部終わったけど……」
一息つきながら、アルザは森の方へ注意を向ける。森ではいまだに銃声と爆音が鳴り響き、所々で炎が燃え盛っていた。
「……とりあえず危なさそうだし、こいつら縛って中に入れとくか」
***
ーーおかしい。自分は追いかけている筈なのに、何故。
黒ローブの魔導士は逃げ続けるルースを追いかけていた。ルースは時々発砲する以外、特に何をするわけでも無い。ただ逃げるだけであった。
突然、ルースが振り返って発砲した。そしてまた、前を向いて逃げる。ちなみに今、ルースが持っているのは、先ほどまで使用していたショットガンではなく、ゴム弾を込めたスライド式の拳銃である。
ローブの魔導士は、杖の先に炎を灯し、弾丸を防ぐ。辺りにゴムの焦げる匂いが漂った。
一見、追い詰められている側がとる行動。しかし、黒ローブの魔導士には、自分がこの子供を追い詰めているとは思えなかった。むしろその逆。自分が追い詰められている気がしてならない。
実はこの魔導士、ルースのことを『手練れ』と言ったが、本当はアルザよりも『弱い』と判断していた。長身で、細身ではあるが引き締まった身体つきをしているアルザに対し、ルースは服の上からでも分かるくらい、さらに細く、身長も幾分か低かった。体格だけならば、アルザの方が強そうに見えなくもない。
再びルースがゴム弾を撃つ。ローブの魔導士はさっきと同じように、炎で弾丸を防いだ。
ーーこいつの目的は何だ?狙いこそ正確だが、当てることが目的ではないような射撃。なら、何の為に?
ローブの魔導士が思案していると、不意に炎の隙間から、ルースの眼が見えた。その眼は、追われる者、狩られる者の眼ではなかった。
紅い独眼。それは、狩る者の眼だった。
黒ローブの魔導士は悟った。『気がする』のではなく、実際に追い詰められているのだと。どう追い詰められているのかは分からないが、すでに王手はかかっているのだと。
***
アルザは小屋の中にあった縄で山賊達を縛り、中に入れたあと、外に出てルースを待っていた。しばらくするとルースが森の中から出てきた。
「山賊達は?」
「縛って小屋の中に入れといた」
「そうか。お疲れ様。こっちも直ぐ終わる」
そう言うとルースは、袖から赤いチョークを取り出す。学校でよく見るピンクに近い赤ではなく、本当に赤色のチョークだ。そのチョークで近くの木に二箇所、ある『文字』を書く。
「少し危ないから下がっててくれ」
「?ああ、分かった」
ルースの言葉に疑問に思いながらも従うアルザ。ちょうどそのとき、
「はあ、はあ、か、観念したか……」
そう言いながら、ローブの魔導士も森から出てきた。息も乱れてなければ、汗一つかいていないルースに対し、既に息も絶え絶えだった。おそらく、ローブの下は汗だくになっていることだろう。
「ちょこまかと逃げ回って……!何がしたかったんだ?!」
息も整い始めたところで、怒りを露わにする魔導士。それに対し、ルースは、
「気づかなかったのか?」
と、逆に問い返す。
「これ以上待っていると燃え広がりそうだし、始めるか」
そう呟くと、先程『文字』を書いた木の後ろに回る。
「ま、まさか、やめろ!!」
ルースが動いたことで、正面に書かれた『文字』が見えるようになった魔導士が怒鳴り、杖の先に火球を出現させようとする。しかし、ルースが木の後ろに書いた『文字』に手をつき、叫ぶ方が早かった。
「『ラグズ』!!!」
瞬間、正面の『文字』ーー『ラグズ』のルーンから、そして森の所々で水流がほとばしる。その水流がローブの魔導士を呑み、燃え盛る炎を消した。
『ラグズ』とは、水や流れを表すルーンである。ルースは逃げ回るふりをしながら、これを何本かの木に書いていたのである。
水が流れていくと、気絶した魔導士がうつ伏せになって倒れていた。ルースは近づくと、背中を叩いて水を吐き出させた。そこから、腕を捻って動きを完全に封じ、ポーチの一つから紐を取り出して縛る。
ここまでの一連の動作を、流れるように済ませたルースを茫然として見ているアルザ。そんなアルザに
「もう出てきて良いぞ」
と、ルースが声をかけた。
言われるがままにアルザはルースに近づいた。そして、ある疑問を口にする。
「なんでわざわざこんなに手間がかかることを?」
「こいつの実力と『属性』を確実に見極めたかったんだ」
『属性』とは、魔法と、魔法を扱える者なら全て持っているものであり、火、水、地、風、時間、空間、光、闇、無の9種類ある。その中でも、火と水、風と地、時間と空間、光と闇は相殺関係にある。唯一、無属性だけは相殺関係となる属性が無い。
この黒ローブの魔導士の属性は火。それに対してルースは、水属性の魔法を使ったのだった。相殺関係にある魔法同士がぶつかった場合、両方の魔法が消えるか、威力の強い魔法が残る。
「それと、後から消火するのが面倒だった」
「…………」
アルザはそちらの方が理由としては大きいような気がしたが、口には出さなかった。
おもむろに、ルースがタブレット型の小型通信端末を取り出して、誰かと連絡をとる。
「トピアス軍と警察がこいつらの回収に来る。それまでは待機だ」
「了解」
何はともあれ、これでアルザの初任務は無事にーー