ダーク・ファンタジー小説

Re: ウェルト戦記 ( No.2 )
日時: 2013/08/25 01:28
名前: ヒント (ID: QShSD58R)

第一章 魔導士ギルド第八支部

第一話

 「確かに、分かりやすい……。」
小さな店が並ぶ商店街の、最奥にそびえ立つ大きなビル。そんな、とてつもなく目立つビルの前で、誰かに聞かせるわけでもなく少年が一人呟いた。

 そして、少年もまた周囲の目を引いていた。理由は少年の容姿にある。銀色の髪にエメラルドグリーンの双眸。少し高めの身長。さらに整った顔立ち。

  ただでさえ目立ちやすい少年が目立つビルの前にいるのだ。周囲の目、特に女性の目を引かない訳がない。しかし、そんな視線に全く気づかず、
「……って、やべ。そろそろ時間じゃん。」
そう言って、周囲からの視線に気づかぬまま、少年はビルの中に入っていった。

***

 中に入ると受け付けがまず見えたので真っ直ぐに行く。

 とりあえず、受け付け嬢に話しかける。
「すいません、今日からここに赴任するアルザ・クロニエミですけど」
「クロニエミ様ですね。マスターに確認を取りますので少々お待ちください」

 少年、もといアルザは受け付け嬢が確認を取っている間、暇つぶしにエントランスを見渡すことにした。

 エントランスはそこそこの広さがあるが、アルザと受け付け嬢以外には誰もいない。受け付け嬢が一人でも大丈夫な理由が分かったような気がした。

 「お待たせしました。そちらのエレベーターから七階に上がってください」
そんなことを考えていると、受け付け嬢から声をかけられた。
「ありがとうございます。ところで、受け付けって一人で大丈夫何ですか?」
お礼を言うついでに聞いてみる。
「はい。ここは尋ねてくる人が少ないので」
予想通りの答えが返ってくる。
「ありがとうございました。お仕事頑張ってください」
「アルザさんも頑張ってください。ここは人数が少ないので」
「やっぱり、そうなんですか……。あ、長々とすいません」
「いえいえ、ここって人があまりこないから基本的に暇なんですよ。だから通りかかった時はいつでも話しかけてくださいね」

 どうも、と短く挨拶をして受け付け嬢との会話を切り上げ、エレベーターの前に立つ。そして、七階のボタンを押した。

***

  七階に着くと、直ぐに『マスタールーム』と書かれた扉が見えた。
「何でも分かりやすいよな、ここって……」
また独り言を漏らし、扉をノックする。どうぞ、と中から声が聞こえ、部屋に入った。

 「初めまして、アルザ・クロニエミ君。僕がこの第八支部のマスター、ジークベルトです」
やや広めの部屋の奥には、スーツをきた若い男がいてアルザが入ってくるなりこう言った。いきなり言われたアルザは、
「は、初めまして、ジークベルトさん」
若干どもりながら返事をする。
「ジークかマスターで構いませんよ。寧ろそっちで呼んでください」
「あ、はい。じゃあ、ジークさんで」
「ええ、それでいいです。それでは」
ジークベルトは一呼吸おき、
「魔導士ギルド第八支部へようこそ、アルザ君」

***

  魔法が存在し、日常的に使われるこの世界−−ウェルト。このウェルト最大の大陸であるザハリアーシュ大陸には『ギルド』と呼ばれる組織が幾つかある。魔導士ギルドもその一つ。ギルドの中には支部があるものも多い。

  そして、ザハリアーシュ大陸東沿岸部に位置するトピアス共和国。そこにある魔導士ギルド第八支部では……。

  「これで書類での手続きは終わりです。お疲れ様でした」
ビルに入ってから約一時間。アルザが正式に第八支部に所属した。

 「今日はもうすぐ帰ってくる君の指導員と顔合わせをして、ご飯を食べたりして休むだけですね」
「俺の指導員ってどんな人ですか?」
おそるおそるといった感じでアルザが聞いた。

  指導員とは、ギルド本部で研修を終え、各支部に赴任するギルドメンバーに様々なことを教えたりする先輩のギルドメンバーのことだ。この指導員は新米ギルドメンバーにとっては一番身近な存在になるため、期待と不安、どちらも大きい。

 「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。君の指導員は君と同い年なので、接しやすいと思いますよ」
「同い年って......」
それはそれで不安だ−−そんなことを考えているうちにノックが響いた。

 「どうぞ」
アルザの時と同じようにジークベルトが返事をする。
「失礼します」
男性とも女性ともとりにくい中性的な声と共に、ノックをした人物が部屋に入った。

  アルザの目にまず映ったのは紅い右眼、そして左眼を覆い隠す眼帯だった。それから、おそらく水晶でできている左耳にのみつけたピアス、後ろで一つ結びにされた長い白髪が目に入る。

 「マスター、彼が?」
先ほどと同じ中性的な声でジークベルトに質問する。
「ええ、そうです。彼が君が指導するアルザ君ですよ」
それを聞くとアルザの方を向き、
「ルースだ。よろしく頼む。」
短く挨拶をする。
「よろしくお願いします」

 アルザもまた、短い挨拶を返しながら、こんなことを考えていた。

 −−この人って男子?女子?