ダーク・ファンタジー小説
- Re: ウェルト戦記 ( No.3 )
- 日時: 2013/08/25 01:31
- 名前: ヒント (ID: QShSD58R)
第二話 前編
「そろそろ夕飯どきですね。下へ行きましょうか」
ルースの性別について一人悩んでいるアルザと、そのことに全く気がつく様子のないルースにジークベルトが声をかける。壁にかけられた時計は六時半頃を指している。
ルースは無言で頷くと、失礼しました、と言って部屋を出る。アルザもそれに習い、失礼しましたと言って部屋を出た。
エレベーターへ行くと既にルースがドアを開けて待っていた。アルザとジークベルトが乗ると三階へのボタンを押す。
エレベーターが動き始めるとジークベルトが会話の続きを始めた。
「本当は今日中にここのメンバー全員と会って欲しかったのですが......」
「いないんですか?」
「半数が任務や依頼で出払っているのですよ。それも遠方に」
「残ってるのって何人位ですか?」
「僕らの他には一人ですよ」
「……え?」
会話に一瞬の間が空く。
「ここって昔から何故だか人が少なくて、今も君をいれて七人しかいないのですよ」
「え、しちって、ちょっ、七ィィィィ−−−−!!?」
狭いエレベーター内に叫び声が響いた。
***
「……何もそんなに驚かなくても。そして大声を出さなくても」
「……すいません」
アルザが叫んだ後、エレベーターは目的の階に到着した。ちなみに、ルースはエレベーターに乗ってから一言も話していない。しかもずっと無表情のままである。
−−接しやすいって話でしたよねジークさん?本当は口で訴えたいところを我慢して心の中だけに留めておく。
「でも七人って大丈夫何ですか?」
訴える代わりに尋ねる。
普通、魔導士ギルドの各支部には二十人ほどのメンバーがいる。本部に至っては正規のメンバーだけで約五十人、研修生も合わせれば百人を超える時もある。
第八支部の人数の少なさと特徴は有名でその噂くらいはアルザも聞いたことがあった。しかし、一桁とは夢にも思っていなかった。
「ええ、少ない分か皆強いし仕事もできるので助かってます。あ、ここが食堂ですよ」
***
「あなたが今日新しく入ってきた子?」
食堂には白いワンピースの上から白衣を羽織った女性が座っていて、アルザを見るなり話しかけてきた。
「はい、アルザ・クロニエミです。よろしくお願いします」
「よろしくね、アルザ。わたしはミラ・オリアン、見てのとおりエルフよ」
「あ、本当だ……」
エルフには金髪に金色の瞳、そして尖った耳という外見的な特徴があるのだが、彼女には全て揃っていた。
「わたしは基本的に医務室にいることが多いから、怪我した時とかはいつでも来てね。それから……」
「お腹も減ってると思いますし、そろそろ食べませんか?続きは食べながらでもしましょう」
放っておくといつまでも話を続けそうなミラを見てジークベルトが遮った。
「じゃあ、ご飯の前にこれを」
話を遮られたことに若干不満げなミラが白衣のポケットをゴソゴソと探る。
「あったあった」
やがてポケットから出したのは、
「……種?」
「ええ、でもただの種じゃないの。良ーく見ててね」
そう言うと、ポケットからさらに小さいポッドと袋に入れられた土を出す。
−−この人のポケットってどうなってるんだ?アルザは疑問に思いつつも口に出すのは控える。
ミラは その土をポッドに入れ、種を置くと、
「『育草』!!」
手をポッドの上に掲げながら唱えた。すると、早送りしているかのように種から芽が出て、茎が伸び、葉がつき、そして花が咲いた。
「これって、ミラさんの魔法ですか?」
「うん、『育草』って言ってね、植物を好きなように生長させることの出来る魔法なの。はい、これプレゼント」
「あ、ありがとうございます」
ミラが渡してきたポッドを、礼を言い受け取ろうとしたが、
「ミラさん」
後ろから声が聞こえ、受け取ることなく振り向く。
「また毒とか仕掛けているんじゃないでしょうね」
声の主はルースだった。ルースが喋ったことに驚きつつも、アルザにはある一つの単語が気にかかった。
「また?」
「ああ。前に三回やられた」
「三回も!?」
「あら、あれはちょっとしたジョークよ。それにこれは普通の花だし」
「そのちょっとしたジョークが危険過ぎるんですよ、貴女の場合。神経麻痺の毒草を渡されたこっちの身になって下さい」
「…………」
皮肉交じりの会話の応酬に着いていけなくなってきたアルザは、何も言えずに傍観していた。
「とにかく、危険な植物をやたらと渡すのはやめてください」
「だから、これは普通のだって……」
「今までの経験上全く信用できません。それよりも、料理をとってきた方が良いのでは」
「それもそうね……。って、二人分持っているじゃない!」
確かにルースは二人分の料理をトレイに載せて持ってきていた。だが、
「これはアルザの分です。貴女に付き合わされているだろうと思って」
「も、もう一つの方は!?」
「こっちは私の分です」
「うぅ、ひどい……」
「自業自得です」
ミラが料理を取りに席を立つと、アルザの前にトレイを置き、隣に座る。アルザも礼を言いつつ座った。
「取り敢えず適当に取ってきた。ちなみにここはバイキング形式だ。あと、あの人の悪戯は危険だから気をつけた方が良い」
「おや、またですか」
アルザとルースが声に反応して前を見ると、ジークベルトが席に座るところだった。
「ミラの悪戯は少々過激ですからね。くれぐれも注意して下さい」
「はぁ…….」
二人から同じような忠告を受け、曖昧な返事をするアルザ。−−大丈夫なのか?俺のこれからの生活。そんな心配をしていたが、
「まあ、悪戯が過ぎるところ以外は悪い人ではないよ」
「え?」
「あと、彼女の薬はかなり効きますね。確かに、悪戯について目をつぶれば悪い人ではないのですが……」
さっき皮肉を言いまくっていたルースも、悪戯には困った様子のジークベルトもミラのことは認めている様子だった。
「何の話をしているのかな?」
そこへ、ミラが料理を持って戻ってくる。
「何でもありません」
「何でもないですよ」
ルースとジークベルトが同時に答え、
「むっ!?何でもありそうだけど!?」
ミラが反論する。そして、
「ぷっ、ははっ、あはは」
そんな三人の様子を見て、アルザが笑った。
「なんか、家族みたいだ」
「「「家族?」」」
アルザの言葉を聞いて三人が同時に尋ねる。
「……確かに、ここは人数が少ない分、一人一人の距離が近いので、家族と言っても差し支えないですね」
ジークベルトがどこか納得したように呟いた。
「だったら、アルザは『第八支部』っていう家の新しい一員ってことになるね」
ミラが嬉しそうな顔で言う。
「マスター」
「どうしましたか、ルース」
「『あれ』ってもう言ってると思いますが、もう一度言いませんか?皆で」
「珍しいですね。貴方がそのようなことを自分から言い出すとは」
「本当ね。明日の天気どうなっちゃうのかな。でも賛成」
「......悪かったですね」
「『あれ』って何ですか?」
ただ一人『あれ』が何なのか知らないアルザが首を傾げる。そんなアルザを見たジークベルトは微笑んで、
「せーのっ」
「「「第八支部へようこそ!!」」」