ダーク・ファンタジー小説
- Re: ウェルト戦記(参照200ありがとうございます!) ( No.38 )
- 日時: 2013/11/30 00:58
- 名前: ヒント (ID: aOQVtgWR)
- 参照: 長すぎたため、前後半で分けます
第六話 前編
「……とりあえず、状況説明してくれないか?テオン」
「…………」
自分がこの状況を作り出した原因であることにも気づかぬまま、ルースがテオンに尋ねた。テオンは無言で頷くと、ジーンズのポケットから通信端末を取り出し、メモ帳を開いて文字を打つ。
〈また男だと思われていたみたいだよ〉
「またか……。何でいつも間違えられるんだ?わざわざ髪も伸ばしたのに」
「…………」
間違えられる理由は明らかに、彼女の口調や仕草、そして体つきなどにあるのだが、テオンは敢えて伝えなかった。特に最後のことに触れた後、どうなるか考えたくはない。その代わりに、
〈それはそうと、アルザさんの魂が何処かに行っているように見えるけど、放っておいて良いの?〉
未だに放心状態から回復していないアルザについて、指摘する。言われて、ルースはアルザの顔の前で手を振ってみたが、反応が無かった。他にも一通り試し、反応が無いことを確かめると、笑いすぎて痙攣し始めているシオンの方を向き、
「シオン。『操音』使って良いから、耳元で「ちょっと待ってくれ!確かめたいことがあるんだ!!」
「おい、お前が待て!!」
やや危険な指示を出そうとしたところで、突然の大声に遮られる。先ほどのシオンほどではないが、かなりの大きさだったため、ようやくアルザも放心状態から回復した。
四人が声のした方を見ると、暴れる黒ローブの魔導士と、それを取り押さえようとする警官と軍人達がいた。ルースに手足を縛られていたが、足の方だけ解かれている。魔導士は軍人達を振り払うと、アルザ達四人に向かって駆け出した。
すぐさま反応したのはテオンとルースの二人だった。ルースは背中のホルスターから拳銃を、テオンは身体を半身にして構える。しかし、男のとった行動は二人とも予想できないものだった。
「申し訳ございませんでしたぁぁぁ−−−−−!!!」
「「「「???」」」」
後ろ手に縛られたまま、謝罪の言葉とともに土下座をする魔導士。疑問符を浮かべる四人を他所に、顔を上げるとさらに続ける。
「なあ、白髪のあんた!あの『死神』だろ?!S級魔導士の!!」
「違う」
「速攻でウソつい……あ」
ローブの男の言葉を否定するルースにツッコミをいれたシオンだが、ルースに睨まれて口をつぐむ。しかし、もうすでに遅かった。
「やっぱりそうかよ……!うわぁぁ、なに『死神』なんかに勝負挑んで……」
「その呼び方、やめろ」
絞り出すような、それでいてはっきりと響く、冷たい声。
「……嫌いなんだ、その呼ばれ方」
僅かに、苛立ちが滲む。
アルザは声の主ーールースを見て、背筋が凍ったように感じた。
完全な無表情。その中で唯一、紅い目だけに感情が宿っていた。一瞬、アルザは怒りかと思ったが、それだけではなかった。
憎しみ。
殺意。
そして、言葉では表せない何か。
あらゆるものが混ざりすぎて、その全てを読み取ることは出来ない。
「……ルーねぇ」
シオンが呼びかけるが、まるで聞こえていない。
不意に風が吹いて、ルースの左耳のピアスを揺らす。キン、と小さく澄んだ音。その瞬間、紅い目に渦巻いていた感情が消えた。かわりに、翳りを帯びる。
「……すまない」
小さく呟き、俯くルース。アルザには、その呟きが自分達だけに向けられたものではないような気がした。ただ、それが誰かなのかまでは解らない。
後になって、少年はこのことを悔やむことになる。
***
「じゃあ、シオンとテオンって兄妹ではないんだな」
「うん、従兄妹なんだよ〜」
「…………」
「…………」
「確かに名前とか、泣きぼくろとか、あと目の色とか似ているよな」
「パパ達が兄弟で、アタシもテオンもパパ似なんだって。髪だけは、アタシはママ譲りだけどね」
「…………」
「…………」
昼時で賑わう商店街を、会話を交えながら歩く四人。正確には、会話しているのはアルザとシオンだけであるのだが。テオンは時々頷いたりしているが、ルースはあれから三十分以上、一度も口を開いていなかった。
結局、黒ローブの魔導士は、ルースの『あの目』に睨まれた時には気絶して、そのまま連行された。
ーー『あの目』。
アルザはシオンと会話しながらも、頭では先ほどのルースの事を考えていた。
魔導士ギルドのメンバーは、上からS、A、B、Cの四つの級に格付けされる。最上位であるS級のメンバーには、そのほとんどに『二つ名』が付けられており、容姿や戦闘スタイルなどから自然と呼ばれ始め、定着していることが多い。
『死神』というのは、ルースの『二つ名』なのだろうと、アルザは考えていた。だが、『二つ名』というのは、褒め言葉に近いものがあり、『死神』は人によっては嫌がるかもしれないが、憎しみの対象となることはあまりない。なら、なぜ彼女は『あの目』をーー。
そこまで考えたところで、後ろから軽く肩を叩かれ、アルザは我に返る。振り返ると、テオンが端末の画面を向けていた。
〈ごめんなさい。シオンが一人でずっと喋っちゃってて〉
「いや、俺もぼさっとしてたから」
アルザが答えると、テオンはその下に文字を打ち込む。
〈シオンは一人でもずっと喋ってますから……。ルースからは『第八で一番うるさい奴』って言われているんですよ〉
「あ、やっぱシオンのことだったんだ。あと、敬語じゃなくても良いよ」
〈分かりました。ここからは、普通に打つね。それと、この会話の仕方はあまり気にしないでおいて〉
そう打ち込むと、テオンはネックウォーマーを指差す。
〈前にこの下を切られて、声が出せないんだ〉
「……ああ、大丈夫だよ。それよりも、その肩のやつの方が気になるんだけど、やっぱり?」
テオンの格好は、白いワイシャツに、デニムのジーンズにスニーカー。そして、季節外れだがネックウォーマーといった、至って普通の格好だった。ただ、肩に担いでいる、筒状のケースに入れられた細長い『何か』を除いては。
〈多分、そのやっぱり。これがぼくの武器だよ。服の中に隠すにも隠せないし、魔法で『転送』しようにも、できない時があるしね〉
「うん、確かに……」
にっこりと微笑みながら、アルザに端末の画面を見せるテオン。アルザにとっては、その笑顔が逆に怖く感じたりするのだが、それは心の内に留めておく。
「テオン〜?アルにぃ〜?何話してんの〜?もう着いたよ〜」
そのあとも、二人が談笑していると、シオンが呼びかける。アルザはテオンの端末の画面から目を離し、前を向くと、小さいレストランの前だった。
「ああ、うん……、って、『アルにぃ』って俺?」
「えぇ〜、ダメ〜?」
「いや、別に良いんだけど……」
「じゃ、アルにぃでけって〜い!」
〈ごめん、シオンは勝手に、年上には『ねぇ』とか『にぃ』とか付けるから……〉
「いや、ホントに良いんだけど……。慣れるまでに時間かかりそうだな」
「早く入ろ〜よ〜!」