ダーク・ファンタジー小説
- Re: ウェルト戦記(参照500?!!&お知らせ) ( No.41 )
- 日時: 2014/02/08 00:18
- 名前: ヒント (ID: 7Q4U.U3m)
第七話
外へ出た瞬間、目に飛び込んできたのは、大量の魔物と、襲われる人々だった。その数は、アルザとルースが森で戦った時よりも多い。
魔物の姿を確認すると、アルザは午前中と同じように、パーカーの内側に隠したダガーを。そして、テオンはケースのファスナーを下ろし、中から抜き身の剣ーーレイピアを取り出す。
レイピアとは、片手で持つ細剣である。片刃のもの、先端部分以外には刃の付いていないものなど、幾つか種類があるが、テオンが扱うのは両刃のものだ。
空になったケースを、空いた左手で右腕に巻きつける。このケースには磁石が取り付けられており、戦闘中などは邪魔にならないよう、体の何処かに着けられるようになっているのだ。
手早くケースを巻きつけ終えると、すでに戦い始めているアルザの元へ向かう。魔物は猛禽類に似た姿で、空を飛ぶものであり、リーチの短いダガーではかなり不利だった。『闇武者』を使うことで攻撃を避けてはいるが、やはり苦戦している。
テオンも加勢するが、刺突が基本的な攻撃方法であるレイピアも、あまりこの状況に向いているとは言い難かった。
ーーこのままじゃ、ちょっと厳しいかな。
そう判断し、戦いながら、テオンは自らの『もう一つの武器』を探す。すぐに、花屋のバケツが倒れて、水がこぼれているのを見つけた。切っ先をこぼれた水へ向け、振り上げる。
瞬間、水が浮かび上がり、十個ほどのの球体へと形を変えた。
テオンがレイピアを振る。その動きに合わせて宙を飛び、魔物達を包み込んだ。
テオンの高位魔法ーー『水玉』。
本来形を持たない水に、球体という形を与え、自身の思うままに動かす魔法である。
そして、当然水なので空気は無い。翼を必死に動かして魔物が抵抗するが、やがて窒息して力なく落ちていった。テオンの『水玉』も形を失い、石畳の地面に水溜りをつくる。
「今のって、テオンがやったのか?」
魔物の数が減ったことにより、少し余裕のできたアルザが尋ねる。テオンは頷くと、周囲を見渡した。
魔物の姿は相変わらず多いが、一般人の姿は見えない。他の三人が避難させたのだろうか、と考えていると、
『テオン〜〜!!アルにぃ〜〜!!多分、避難終わったよ〜〜!!!』
ちょうどシオンが、『操音』を使って答えてくれた。『多分』というのがやや引っかかったが、二人ともスルーしておいた。
***
「悪りぃ、待たせた!」
少しして、イグナーツが駆けて寄ってきた。そこへ、再び集まってきた猛禽類型の魔物が、爪をイグナーツの頭に向けて襲いかかる。イグナーツはそれを避けようともせず、右腕を顔の前に出した。武器はおろか、手には何も持っていない。
「危な……!!」
アルザが思わず叫んだ瞬間、
ガキンッ
と硬い物どうしが、ぶつかったような音が響いた。
「テメエの爪程度じゃあ、オレには傷一つつけらんねぇよ!!」
ニヤリ、と口角を上げて、左手でアッパーぎみに魔物を殴りつける。ゴシャアッ!と、骨を砕き、一撃で絶命させた。
イグナーツの両腕は、明らかに普通の人間のものとは違っていた。日の光を反射して輝く、赤い『鱗』。それが肩の辺りまで、隙間なく覆っていた。さらには、その指先に獣のような、尖った爪まで生えている。
「え、え、えええええええっ??!!」
「あー、いきなり見せるには刺激が強かったか?」
混乱して、再び叫ぶアルザ。そんなアルザを見て、イグナーツが苦笑する。
「ま、見てのとおり、オレは『混龍』ーー四分の一がドラゴンなんだよ」
説明しながらも、魔物を殴り、爪で切り裂く。上にいる敵にも、余裕で攻撃を届かせる。
それもそのはず。イグナーツの身長は、アルザよりも頭二つ分ほど高かった。おまけに普通の人間と比べて、腕の長さの比率も長い。
しかし、それでも魔物の数が減ったようには感じられない。それどころか、
「なあ、増えてねーか?これ」
次々と、何処かから集まってきていた。
「だあああ!もうめんどくせぇ、テオン!!」
倒しても倒しても減らない魔物に、ついにイグナーツが激怒した。呼ばれたテオンは、イグナーツが何をするつもりでいるのかを察する。
「今からまとめて燃やすから、自分とアルザ、護っとけ!!」
「…………」
予想通りの指示に、内心ため息をつきながら、従うテオン。アルザのそばに寄ると、『水玉』を発動し、積み重ねるようにして壁を作る。
「燃やすって何を……って、あ」
理解の追いつかないアルザが質問するが、テオンが声を出せないことを思い出す。急いで謝ろうとしたが、目の前に水が浮かび上がり、文字を形作った。
〈見たらすぐにわかるよ。危険すぎるけど〉
「へぇ……。こういうことも、できるんだな」
〈うん。でも、これは『水玉』じゃなくて、普通の中位魔法だけどね。それよりも、イグナーツの方を見て〉
テオンの魔法に感心していたアルザだが、促されてイグナーツを見る。
「テオン、もう良いか?!」
早くしろ、というようにイグナーツが怒鳴り、それに対してテオンが頷く。
二人が安全を確保したことを確かめると、イグナーツが右の拳を握る。
「『赤龍炎』!!!」
叫びながら、殴るようにして右手を前へ突き出す。右腕から赤い炎が一気に広がり、炎に触れた魔物が一瞬で炭、もしくは灰と化した。
「……え?」
初めて見た時以上の光景に、アルザの思考が停止しかけ。
「…………」
もはや内心どころか、普通にテオンがため息をつき。
「よっしゃ、スッキリしたぁぁーー!!」
そして、目の届く範囲全ての魔物を、燃やしたイグナーツがガッツポーズをとった。
***
男子三人が魔物と戦っている一方、シオンは金属製のフラフープを、手首で滑らせて回していた。中に何か入っているのか、シャラン、と回す度に音が鳴っている。その横で、ルースがシオンを護るようにして、銃で魔物を撃ち落としていた。一般人の避難は済ませたため、流れ弾を気にする必要はない。
「どうだ、シオン」
フラフープを回し続けるシオンに、ルースが尋ねる。
「ん〜、音じゃないよ」
一見、シオンは遊んでいるようにも見えた。白を基調としたTシャツに、その上に羽織ったデニムベスト。プリーツタイプのミニスカートに、ハイカットシューズというカジュアルな格好もその一因だろう。とはいえ、流石にこの状況で遊びはしない。
「それなら、『使っている』奴を探してくれ」
「おっけ〜!」
ルースの要望に元気よく答えると、フラフープの回転を止め、一度だけ鳴らし、耳の後ろに手を当てる。そのまま、五秒ほど経つ。
「え〜と、それっぽい人が三人、かな」
「三人か。なら一度合流して、逃げられる前に捕まえるぞ」
「了解!」
***
「……街中で燃やすな、と何回言ったか?」
「いや、その、あまりにも多くて、めんどくさかったから……」
「言い訳無用だ」
「さーせんっした!!!」
ジャガッ!!と大型口径の拳銃に、弾倉を叩き入れるルースと、土下座するイグナーツ。大の大人(しかも大男)が、年下の少女に説教されるというかなりシュールな図ができあがっていた。
なぜこのようなことになったかというと、少しだけ時間を巻き戻す必要がある。
***
アルザ、テオン、イグナーツと合流しようとして、走っていたルースとシオンだが、突如、目的地で業火があがり、周囲を赤く照らした。
「……馬鹿としか、言いようがない」
見た瞬間に、誰が何をしたのかを理解したルースが呟き、スピードを上げた。
目的地に辿りつくと、『赤龍炎』の炎があちこちに燃え移っていた。テオンが『水玉』を使って消化しているが、間に合っていない。すぐさま、『ラグズ』のルーンを書いて、ルースも消化活動に加わる。
イグナーツの『赤龍炎』は、自身の体から発火させ、操る魔法である。しかし、着火した炎は操れない。しかも、イグナーツ自身は火属性であるため、相殺関係にある水属性はほとんど扱えない。
ーーつまり、一度着火してしまえば、他人に消化して貰わなければならないのだ。
二人掛かりで火を全て消し終えると、イグナーツにルースが近づく。そして、
「……イグナーツ」
拳銃を取り出したのだった。