ダーク・ファンタジー小説
- Re: ウェルト戦記 ( No.9 )
- 日時: 2013/09/28 19:39
- 名前: ヒント (ID: LZyMpIsd)
第三話
「ふぁぁ、ねみぃ……」
午前八時、目覚まし時計のアラームでアルザは起床した。昨夜のこともあり、若干の目覚めの悪さを感じながらも起き上がる。とりあえず、服を着替え、寝癖のついた髪を手櫛で軽く直してから、食堂に向かった、
食堂には誰もおらず、昨日の賑やかさが嘘のように静まり返っていた。適当にパンやコーヒーなどを取って食べていると、
「おはよ〜、アルザ。早いね〜」
ネグリジェを着たミラが入ってどこか気の抜けるような挨拶をしてきた。
「おはようござい、っぶ?!!」
挨拶を返そうとして、ミラを見たアルザが盛大に吹き出した。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫です……。むせただけなんで」
「もう、気をつけてよね……」
「……でか」
ミラが食事を取りに行くと、聞かれないように小さく呟いた。
昨晩は白衣を着ていたせいで分からなかったが、今着ているネグリジェの上からだとかなりの巨乳である事がはっきりと分かった。それも、健全な青少年には少々刺激が強すぎるほどの大きさである。
前に座られでもしたら確実に目のやり場に困る事を予感したアルザは急いで残りをかきこむと、食堂を出た。
***
食堂を出て、約束の十時までの時間を部屋や荷物の片付けなどをして潰したあと、エントランスへ向かった。
エントランスで五分ほど待っていると、
「すまない、待たせたな」
エレベーターからルースが出てきた。その手には書類が一枚握られている。
「いや、そんなに待ってないけど……それは?」
「今日の任務内容だ。場所は新首都街道の森。詳細は行きながら話す」
「了解」
短い会話を交わし、二人は第八支部を後にした。
***
二人はアルザが第八支部へ来る時に通った商店街ではなく、舗装されていない商店街から一本離れた道を歩いていた。
「新首都街道って商店街抜けた先じゃなかったっけ?」
実際に第八支部に来るときに商店街を通ったアルザが疑問を口にする。
「まあ、向こうの方が距離は短いんだが……諸事情で時間が掛かる」
「???」
「とにかく、ここ最近、森で山賊に襲われる被害が増えている。今日はそいつらの捕縛だ。」
「俺が通った時は何ともなかったけど……」
トピアス共和国には新首都にしか空港がない。そのため、空路を使って入国する場合、国内のどこに行くにしても、必ず新首都から行かなければならない。ここ、第八支部のある町、バローラも例外ではない。
「基本的に夜しか行動しないらしい。バローラは割と治安が良い方だから、夜に移動する商人や旅人なども少なくはない」
それが逆に仇になったな、とルースは呟いた。
ルースの説明を聞いて納得したアルザだが、ある事に気付く。
「こういうのって軍とか警察とかが普通、動くんじゃないのか?」
「軍が動いたが、山賊の中に魔導士がいて、手に負えなかったようだ。おまけに盗品に『魔装』があったらしい」
魔装とは、魔法を発動する時に使う道具である。魔導士の中には、詠唱や、あるいは詠唱も無しに魔法を発動できる者もいるが、普通は魔装を使うことがほとんどだ。
「こっちも魔装を使っているから、大丈夫だろう」
「見た目が結構ラフだから、ちょっと心配だけどな……」
自分の着ている服、否、魔装を見てアルザが不安を口にした。
ルースが着ているのは、グレーの半袖のジャケットと、黒いスラックス、ブーツにオーバーグローブ、そして腰のベルトに付けられた三つのポーチ。アルザにいたっては、迷彩柄のノースリーブのパーカーに、紺のTシャツ、ベージュのズボン、黒のリストバンドと、普通に出かける時に着るようなものである。とてもこれから山賊を捕まえにいこうとしている人間が身につけいる服装には見えない。しかし、
「見た目はこれでも、強度は鉄製の鎧などよりもかなり高い。それに、他にも色々な効果があるしな」
「まあ、そうなんだろうけどさ……」
「実戦で確かめてみると良い。それよりも、もう少しで着くぞ」
そう言われて、アルザが前を向くと、街道の入口が見えてきていた。その先には件の森もある。
「森の中に小屋があってそこを根城にしている。まずは近くまで行くぞ」
***
「便利だなァ、魔装って奴は。軍すらもこんな簡単に追っ払えるなんてよぉ」
「そりゃあ、この町の軍は平和ボケしてやがるからな。あの『隣国』があるってのに。それに、俺らには魔導士サマがついてるしよ」
小屋の中では、山賊達が下卑た笑みを浮かべながら、盗品の確認をしていた。その中には貴金属や宝石などに混じって魔装もある。
「にしても、何であの魔導士サマは俺らに手ェ貸してくれんだ?」
「さぁな。手伝ってくれんのならなんだっていいじゃねぇか」
「でもよぉ、俺ら手伝って、何かメリットあんのか?」
「メシにはありつけるぞ?」
隣の部屋には、山賊達が話題にしている魔導士がいるのだが、気にせずに会話を続ける。だが、突然、小屋の外で
−−バヂンッ
と、音が響いた。それを聞いた山賊達が口を閉ざす。そして、すぐに同じ音がもう一度鳴った。
「……おい、何なんだ今の」
「……さあ。外の奴らに訊いてみるか?」
「そうだな……。おい、何だったんだ今のは?!」
山賊の一人が声を張り上げる。しかし、小屋の外からの返事は無い。
「何騒いでやがる!うるせェぞ!!」
「お、お頭!」
隣の部屋からやたらと体格の良い男が出てきて怒鳴った。
「今、外からバヂンって音が鳴って、外の奴らからの返事がねぇんですよ」
お頭と呼ばれた男の近くにいた山賊がしどろもどろになりながら説明をする。
「あ゛?……とりあえず、誰か外見てこい」
「へ、へい!」
頭に命令されて、一人がドアを開ける。
「おい、何があっ……、ぎぃやあぁぁぁあっ!」
その瞬間、またバヂンっと音が鳴り響き、ドアを開けた山賊が悲鳴を上げて倒れた。山賊の服には金属製の輪と、それにワイヤーで繋がれた三枚の羽がある小さな機械が付いている。
「!!おい、誰だ?!!出てきやがれ!!」
***
「なあ、今のって……」
アルザは小屋の前に倒れた山賊と、ルースの手に握られた物を見た。ルースの手に握られているのは十二番ゲージショットガンである。
「テーザー弾だ」
ルースがアルザの疑問に短く答える。
テーザー弾とは、テーザー銃を弾丸の形にしたようなものである。テーザー銃はスタンガンと弾丸がワイヤーで繋がっているのだが、テーザー弾は弾が完全に独立している。そのため、テーザー銃の射程距離が数メートルしかないのに対し、テーザー弾は約五十メートルもあり、離れた位置から敵を無力化することも可能になっている。
「とりあえず、見張りの二人は気絶させたが……」
ルースが小屋の様子を見ていると、中から男が出てきた。すぐさま、ショットガンを構え直して引き金を引く。
「おい、何があっ……、ぎぃやあぁぁぁあっ!」
見事に弾丸は命中し、男は悲鳴を上げて倒れた。
「……容赦ねぇな」
アルザがルースに聞こえないように呟いた。
「!!おい、誰だ?!!出てきやがれ!!」
やたらと体格の良い山賊が怒鳴りながら出てきて、先ほどと同じようにルースが引き金を引いた。しかし、
「「?!!」」
突然、炎の壁が現れ、弾丸を防いだ。これにはアルザだけでなく、炎によって守られた山賊も驚く。一方、撃ったルースはこれといった反応は全くしない。
数秒たって炎が消えると、そこには黒いローブを着て、フードで顔を隠した人物がいた。手にはかなり派手な装飾を施した杖を持っている。その杖をルースが隠れている木へ向けると、
「火神ギディンスの加護を受けし炎よ!我が障害となりし者を焼き払い給え!!」
杖の先に直径一メートルほどの火球が現れた。そして杖を振り、火球を飛ばす。
「避けろ、アルザ!」
ルースが叫びながら、横に跳んだ。アルザもルースとは逆方向へ跳ぶ。その瞬間、火球が木に当たり、炎があがった。
二人は避けた為、全くの無傷だったが山賊達に完全に姿を見られた。
「ガキだと?!!クソが、舐めやがって!おい、てめぇら!このガキどもをやっちまえ!!」
「「「「へい、お頭!!」」」」
体格の良い山賊、もとい頭が命令する。
「アルザ、そっちの山賊達は任せて良いか?」
「……やってみる。ルースは?」
「私はあっちの魔導士の相手をする」
「了解!」
アルザが応えると、ルースは後ろに下がる。
「誰かそっちの白髪のガキを……」
「いえ、私がやりましょう」
頭が山賊達に命令しようとしたが、魔導士が遮った。
「おそらく、白髪の方はかなりの手練れ。ここは一つ、私に任せていただけませんか?」
そう言うと、魔導士は再び火球を飛ばす。ルースはそれを躱し、森の中へ逃げる。魔導士もルースを追いかけ、森の中へ入った。
山賊達は茫然としてそれを見ていたが、
「おい、こっちのガキは確実にやれ!!」
頭に怒鳴られ、アルザに飛びかかった。
そして、アルザは自身の魔法を発動する。
「『闇武者』!!!」