ダーク・ファンタジー小説
- 第一話「塩崎智子」1 ( No.3 )
- 日時: 2013/08/23 20:48
- 名前: 幻灯夜城 (ID: c.0m5wa/)
ドサッ、
何かが倒れたような音。廃墟に漂う独特な空気の中で、一人の男がもう一人の女性を"刺し貫く形"でその人間を地面に伏させていた。
そして、刺し貫いた方の男の姿は"異形"であった。変形した"黒い手"。月明かりに照らされて黒く輝くその腕は、血の色も混ぜざり合って更にその不気味度合いを際立たせていた。
—ずぶり、肉から手を引き抜く生々しい音。
——男はにやついた表情のまま、辺りを見回す。
「ちょろいもんだねぇ、ちょっと"結婚"してやるって言ってだませば人間なんてこんなものよ。アンタの"記憶"は美味しかったぜ?甘い甘いプリンのような味だったなぁ!」
下卑た声が廃墟に響く。この男、結婚詐欺師でありそして人の記憶を食らう生命体、『クロキモノドモ』でもあった。結婚詐欺師の記憶を取り込んだ生命体が、人間の"愛"を利用する形でおびきよせ、夜な夜なその記憶を奪い食らい取っていたのだ。
見下すような視線を、倒れた女性に向ける。女性は動かない。その記憶の全てを食らいつくされ、この世界に存在する意味など無くなってしまったような"抜け殻"。・・・砂となって消え去るのも時間の問題だろう。
—一般的に、『クロキモノドモ』等にその記憶を食らいつくされてしまった存在は、生物であれ植物であれ、数時間経てば白い砂となって消え去ってしまう。"世界から、用なし"と認定されたが故の結果とも言われているし、"その人物を構成しているモノが他の存在に渡り、結果記憶を失った名無しが出来上がるが、世界から拒絶されて消える"とも言われている。どちらにせよ、世界から消えてしまうのは間違いないが。
「さぁて、ずらかるか・・・獲物、また見定めねぇとな」
そんなわけで、この男性は"食事"も終えたということで、この場を後にしようと古く錆び付いた木造の扉にその手をかけた——その時。
「ちょっと待ったぁぁあああ!!」
「っ!?」
ガシャアァンッ——!!
窓ガラスが砕け散る。何が、起きた。周囲を見回して、その目に映ったものそれは——後方の木造の壁に突き刺さった、"刃"。
何だ、何が起きている。困惑する男、そして間髪いれずに第二声が発せられた。威勢のいい、女性の声。
「お前の悪行、この目で確かに確認した!!助けられなかったのが悔やむところではあるが、必要な犠牲だったと割り切っておこう!!」
——外か!
声の方向は、扉の向こう。
焦りと苛立ちが湧き上がり始める中で、男力任せに足で木造の扉を蹴り飛ばし、開いたところから一気に駆けて外・・・庭園へと出る。
—そこで見たもの、それは。
——月明かりに照らされて映える、学生服の少女の姿。
———その両手には、"刃が複数本"。
- 第一話「塩崎智子」2 ( No.4 )
- 日時: 2013/10/17 15:58
- 名前: 幻灯夜城 (ID: .DDflOWn)
アイツだ、アイツがやったのか。
ヒーロー染みたその言葉の言い回しに少々イラっときたものの、どうにか平静を保ちながらその人物に声を荒げて問いかける。
「テメェ・・・何もんだぁ?まさか、ヒーロー気取りのクソガキがノコノコと殺人現場に踏み込んできたわけじゃねぇだろうな?」
そして、返答は一瞬で返って来る。
はぁー、という明らかにこちらを馬鹿にしているような溜め息付きで。
「貴様は何も分かっていないな。私は力を得た"ヒーロー!"。
貴様のような卑劣な悪を倒す、正義であると言っておこう!!」
開いた口が塞がらない。夢物語のような回答をされたからだ。
わけが分からない。人間というのは大体あんな感じなのだろうか。いや、今まで付き合ってきた女共が普通で、これが異常なのだろうか。
ちくしょう。どうにも調子を狂わされる相手だ。
刃を投げてきた以上こちらを狙っていることは明らかなのだから・・・仕方が無い、食事の後のデザートとして楽しませていただくとしよう。
「・・・正義だが何だかしらねぇけどよ。」
言いながら、その腕を構える。"鉄よりも固くなれるこの腕"に貫かれて命を奪われなかった奴なんて今まで一人もいなかった。
鋭く、固い武器になれるこの手、それが今目の前の少女に牙を向く。
人間の肌の色から、一瞬にして黒色に変わった手を見せ付けて。
「まず現実ってもんを見てみろや。てめぇはただの刃で、俺は金属よりも固いこの"手"。どっちが死ぬかなんて明らかだぜ?」
—ま、分からなくても"肉体で分かってもらうしかないんだが"。
「まぁ馬鹿は死ななきゃ治らないっていう言葉があるくらいだ。まずはその身に受けて——"死ねや、クソガキ"。」
—地面を蹴り上げる。
人外であるが故に発せられるその異常な身体能力をもって、駆けると共にその体を浮かせる。手は、勿論少女の心臓めがけて構えたままだ。
手刀。この男の武器であり、殺し道具(技)でもある。
—構えられた腕は、的確にその胸、否・・・心臓を捉えて貫かんとする。
—余裕だな。
近づかれても、反応できないあたり強がりのガキなのだろう。自分が拘束で接近する直前まで彼女は何の反応も見せず、突っ立ったまま。
ならば俺の刃の餌食になれ。そして、記憶を食わせろ。
——その手が少女の胸に到達する、その直前の事であった。
「……ふ、甘いな。」
—っ!?
直前で、その真っ黒な手は"少女の刃に止められた"。
鈍色の、刃であった。反応、されていたというのか?
「っ、テメ」
「正義は、勝つ。これは常識だ!」
—そして、勢いよく弾き返された。
初めは拮抗しあっていたかのように見えた両者の力であったが、鈍色の刃。それを持っていた少女の方が力は上であったらしい。
威勢のいい決め台詞と共に一気に押し出される形ではじき出された男は
体勢を立て直して次に備えようと——。
「ぁがっ……!?」
肩が、肩が痛い。やられた、いつの間に?
—目の前に見えるのは相変わらず刃を持った少女のみ。
——何があった・・・右肩を見ると、"刃が深く突き刺さっていた"。
いつの間に。いつの間に、"刃を突き刺した?"。
競り合いから弾き返すまでの間に、少女が自分に刃を突き刺す暇など無かったはずだ。ならば、何故だ。そう考えた時、頭の中に過ぎる予感。
—"能力持ち、『Memory Breaker』"
……とすれば、あの態度にも納得がいく。自分達の天敵であり、記憶を刈り取る死神のような存在である奴等は"異能"を行使して力を示す。
苦虫を噛み潰したような表情で対策を考える。といっても、ほとんど無いに等しいようなもので、相手の技の分析からせねばならないのだが。
とりあえず、腕を硬化させてその首を切り落とせば、早い話だろう。
結論にもなっていない結論。
再び、黒いその手を構えて見せれば疾走する。
駆ける。風を切り裂き、一直線
「その首貰ったぁああぁ!!」
その時だった。
はっきりとした言葉が耳に届く。
「……やられ役に相応しい台詞だな。」
—一瞬だけ、時間が止まったような気がした。
「え……?」
男の体を通過していくのは、"複数本の刃"。
気づかぬうちに自分の目の前にまで迫っていたそれは、自分の体の隅々を貫いていき、黒い血液を路上に飛び散らせていく。
—複数枚のアニメーションのページを一コマ一コマめくっていくように、一瞬の攻防が展開される。
——全身を貫かれた男の体が、少女の体の横を通る形で崩れていく。
最後に残ったのは、"黒い砂"。
それが、男の姿の成れの果てであることは、この少女以外に知る人間はいないだろう。殺して、この世界から消したのは"少女なのだから"。
戦いが終わったことを確認した少女は、展開していた刃に向けて指を鳴らす。すると、刃が全て消え去った。
そして、背後の月に対して告げる。
「——今宵、悪はここに滅びた!!」
—勝利宣言を。
- 第一話「塩崎智子」3 ( No.5 )
- 日時: 2013/08/25 00:10
- 名前: 幻灯夜城 (ID: hFExu/cI)
—『Memory Breaker』:「塩崎智子」
—『Memory Weapon』:複数本の刃
—異能:半径10mの範囲内に限り物質を自由に転移させることが可能。
—失われた記憶:"中学校時代の友人"
どうやら中学校時代の友人の記憶が全員分抜け落ちているらしい。
だが、代わりに彼女の記憶に残っているのは"事故現場"のようだ。
現在の兆候としては、"まるで使命に取り付かれているかのようにその力を積極的に振るっている"。クロキモノドモの討伐数もかなり多い。
——
・・・キーンコーンカーンコーン
「気をつけー、れーい」
ありがとうございましたー!!
チャイムに続いて、一人の生徒が挨拶の音頭をとる。
それに合わせる形で、クラス全員が挨拶を行った。
ざわつく教室。
六時間目が終わり、いよいよ帰りのSHRが迫ってきていた。
明日は日曜日。生徒達が待ちわびた一週間の終わりであり、そして疲れを癒すための休みの曜日でもある。天国、とも言えるであろう。
「ねぇねぇともー、明日遊ばない?」
生徒達が先生が来るのを今か今かと待ちながら雑談している中、ある女子生徒が"とも"と呼びながらその生徒の机へと近づいていく。
「んー、予定、確認してみるね。無かったら今日電話入れるよ」
「おーけー、ありがと!」
黒髪にポニテが特徴的な少女であった。
塩崎智子——彼女は、机に入っていた授業道具をしまいながら友人の問いかけに答えてみせる。勿論、笑顔で。
返事を貰った方の少女は笑顔で礼を言うと、ふと思い出したように智子へと視線を向けて話し始めた。
「そういえばさ、知ってる?」
「何?」
「最近女性が行方不明になってる事件の話。連れ去られて、それで帰ってこなかったっていう。」
・・・ああ、それか。
巷を騒がせていた、連続誘拐事件。"昔の私"ならそこまで深入りはしなかったが、今の私であれば深入りしていた。・・・いや、"介入した"。
クロキモノドモ、人々を食らう存在を狩るという使命感に追われるような形で、積極的に関わっていったのだ。
その結果、犠牲は出てしまったものの見事に"一人で"犯人退治。
やったね私——一人優越感に浸っていると、そんな智子の様子を不信に思ったのか顔を覗き込まれてしまう。
赤面。
はっ、と我に返り取り乱して顔を抑えて火照りを覚ました。
気まずい沈黙が流れるのも嫌なので、友人の言葉に相槌を打つ。
「そ、そんなことあったね。でも最近無くなったよねそういうの。」
あはは・・・と苦笑い気味に言ってみせる、が。
「・・・え?"昨日行方不明者一人出たってニュースでやってたけど"。」
- 第一話「塩崎智子」4 ( No.6 )
- 日時: 2013/08/25 21:21
- 名前: 幻灯夜城 (ID: Zlwcudfd)
——え?
「そ、その話教えて。」
「い、いいけど・・・なんで?」
「え、いや・・・と、とにかく!」
少々動揺してしまった。若い女性ばかりを狙った誘拐、あれは"結婚詐欺師"の記憶を食らったクロキモノドモが起こした犯行のはずだ。だが、いや、気のせいであって欲しい。"昨日の夜に確かにアレは滅したはずだ"。
昨日の段階で、廃墟に連れ込んで犯行に及んでいた男を制裁したのは紛れもない、"自分"なのだから。この刃で、刺し貫いた事等忘れるわけが無い。飛び散った、黒い血を忘れるわけがない。
「う、うん分かった。」
尋常ならざる智子の様子に気圧されたのだろう。
少女は人差し指を額に当てる動作をして記憶をひっぱりだすように「えーと」と言い、そしてはっと目を見開いて智子に話し始める。
「えっと、ニュースでやってたんだけどね。昨日の夜の段階で、アパートで一人暮らしをしていた女性の叫び声が聞こえた。驚いた隣の部屋の住民が彼女の部屋に行くと、そこには"誰も居なかった"。」
・・・ニュース・・・か。
どうでもいいのだが、最近見ていなかった。
今後は、見るようにしなくてはと話の続きを聞く。
「で、住民は通報。警察の調べでは、この付近に住んでいた彼女の知り合いと思われる男性が怪しいってなってる。男性の自宅の付近500m以内の女性が何人も行方不明になってるってことも警察が怪しむ理由だってニュースで言ってて・・・って、智子!?」
ガタッ、無我夢中で、走り出していた。
席を立ち、扉を開けて走り出す。
「ん、どーした?智子。おーい、」
途中、先生とすれ違うけど、気にしないで走り続ける。
一刻も、一刻も早く行かなければ、また犠牲者が出るかもしれない。
「なぁ、智子どうしたんだ?」
「あ、いや、先生あの・・・えと・・・か、家族から電話来て急いで来てって言われてたみたいで、智子さんは早退します!ほ、本人からの伝言です。」
「そうか、一言ぐらい言っていけばいいものを・・・」
残された友人が、先生の対応に追われたのは言うまでもない。