ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.1 )
- 日時: 2013/09/17 03:33
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)
prologue
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「あー、もう」
隣で声が上がり、俺はそっちを見た。
否、見下ろした。声をあげた本人が、あまりに低身長だったためだ。
その、俺の隣にいたガキ——シーニーという少年は、その碧眼をしきりにこすっていた。
「おい、どうしたんだよ?」
「かゆいんだって。もぉ。花粉症かなー?」
シーニーは目をこするだけでは物足りなくなったらしく、ついには爪を立てて引っ掻き始めた。
「おいおい……充血しまくってるじゃん。つうか、そういうのって引っ掻くともっとひどくなるんだぞ?」
「でもかゆいんだってば!」
ついにシーニーは我慢ならなくなり、
「もういいや」
ぶしゅ。
指をまっすぐ立てて、目玉を抉り出した。
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「ぶぁっはっはっはっは!!バッカじゃねぇの!?」
酒樽を文字通り片手に持って、豪快に大笑いしたのは体格のいい鍛冶職人のオッサン。名前はグラウ。
短い銀髪をツンツンに立てて、片手に酒樽、片手に馬鹿でかいハンマーを持ち歩く変人だ。
「むぅ、そんなに笑わなくてもいいじゃないか、グラウおじさんの馬鹿!」
そんなグラウに、シーニーは頬をぷくぅ、と膨らませて反撃した。
が、10歳にも満たないかわいい盛りのガキがそんなことをやっても、全く攻撃にならない。
グラウはしばらく笑いこけて、ついにはむせて、慌てて酒樽から酒を思いっきり仰いで「ういー、危なかった」と息をついた。……阿呆か。
グラウはその後もやはり豪快に笑って
「いやー悪い悪い。だがあまりに傑作でな、ガハハ!」
とシーニーの頭を乱暴にわしゃわしゃと撫でた。
ちなみに言い忘れていたが、シーニーの両目はすっかり元に戻っている。先ほどくり抜いたとは思えないほど、きれいに目は治っていた。
グラウはシーニーに「やめてよー、僕は子供じゃないんだってば!」と言われるまでそうした後、今度は俺に向き直った。
「しっかし、アーテルもちゃんとシーニーのことを見張っとかなきゃいかんだろうが?お前たちはせっかくつい最近『タッグ』を組んだばかりだっつうのに」
俺は理不尽に思い、グラウに言い返した。
「あのなぁ、いくらタッグを組んでいるからって、四六時中見張っていられるモンじゃねーんだよ。しかもなんで俺がガキの面倒なんかいちいち見なきゃならない?どうせ目玉の一つや二つや三つなんか寸秒で治るっつうの」
「アーテル、目玉は三つもないよー?」
「うっせ、お前は黙れシーニー」
むぅ、とシーニーはまたもむくれた。
——そう、このシーニーというガキは、目玉をくりぬいたくらいじゃすぐに完治してしまう。
そういう『種類』の人間なのだ、シーニーは。
要するに化け物、怪物、妖怪。
……俺もヒトのことは言えないけどさ。
これは、そんな『種類』の人間たちの、世界の話。