ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.11 )
- 日時: 2013/09/17 03:37
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)
Chapter 2.
2
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そして、(シーニーが)待ちに待った夜になった。
日はすっかり沈み、夜空に月が輝く。今夜は……まあ、何とも言えない中途半端な三日月だ。たぶん三日目でもないな、あの太さは。
ちなみに、俺とシーニーは決まった家がとくにない。なので、グラウの家で半ば下宿のように住まわせてもらっている。
グラウは大体いつも、寝るときは作業場か酒場なので、場所に問題はないらしい。
「ほーらー、早く行こうよアーテル!月が昇ったよっ」
「見ればわかるっつうの……今行くって」
仮眠をとったばかりの俺は、まだ若干寝ぼけている目をこすりつつ外に出た。
「アーテル、シーニー。ちょっと待ちな」
背後から、シンザが声をかけてきた。
「んぁ?何」
「持っていきな」
そう言ってシンザは、何かを乱暴に投げてきた。「うわっ」と俺は慌ててそれを受け止める。見てみると、それは布に包まれた小さな箱だった。
「……ナニコレ?」
「夜食。どうせ仕事の最中にでも腹が減ったりするだろうから、2人で分けな」
「わ、ありがと〜シンザさんっ!」
シーニーが無邪気に笑ってそう言うと、シンザはいつも怒ってばかりでしかめっ面なその表情をフッ、と崩して笑った。
実は、俺は以前からシンザやグラウと知り合いだったが、シーニーはこの辺りの町に来てからまだ数日ほどしかたっていない。俺とタッグを組んだのも、かなり最近の出来事なのだ。
シンザには、訳あって子供がいない。なので、もしかしたらシーニーをちょっとした息子のように思ってもいるのかもしれない。
ま、どちらにせよ、シンザがなんだかんだ言いつつ世話焼きな性格なのは生まれつきらしいのだが(だからこそあのグラウと夫婦としてやっていけるのだ)。
俺も夜食の礼を軽く言って、俺たちは今夜の仕事場に向かい始めた。
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「おや、役者がそろったみたいだね」
「よっす、遅かったじゃん」
まるで鳥のように、三角屋根の上に並んで座る双子。
ターゲットの貴族の屋敷がある、貴族街とよばれる通りに俺たちは集まった。
「お前らってホントいつも一緒に行動してるよな……」
「ルージュが勝手にボクに付いてくるんだよ」
「はぁ?ロッソがアタシに付いてくるんだろ?」
いつもの通り他愛ない口喧嘩を始める二人。とりあえずうるさいので、俺はいったん黙らせた。
シーニーは貴族街をキョロキョロと見回し、やがて一見の家……ならぬ屋敷を指さして言った。
「ね、アレかな?」
「あー、たぶんそうだな」
従者の言っていた特徴とその屋敷の外見は一致していた。赤い屋根に金色の風見鶏、同じく金色を基調とした無駄に豪奢な門。
番犬はちょうど……5匹いるな。
スタッ、とそろって屋根から飛び降りた双子が地面に着地する。
そのまま俺たち4人はその屋敷の前まで来た。標識も確認する。間違いないな。
「んじゃ、始めるか」
俺のそのセリフが合図となった。
閉ざされている門を順に飛び越え、屋敷の敷地内にたやすく侵入する。
早速不審者の気配に気づいた番犬が、唸りながら近づいてきた。
「あ、そういえばさ」
ロッソが急に、今思いついたように言った。
「ボクたち別行動にする?4人で固まって動くより2人ずつのほうが効率がよさそうだと思ったんだけれども」
いつもの通り、どこか芝居がかったようなさりげなく気障な口調で提案した。そういえば、そのあたりの打ち合わせは何もしてなかったな。
「あー……俺はどっちでもいいが」
「んじゃそうしようぜ。アタシとロッソはこのワン公ぶっ飛ばすから、アーテルとシーニー先行ってろよ」
「ありがと〜ルージュお姉ちゃんっ」
じゃぁ決まりだね、とロッソは早速両腕をまっすぐ伸ばして『製造』を始めた。一瞬にして、彼の両手のひらからメイスが生まれる。
ルージュにそれを渡し、素早く水筒の冷水で両手を冷やした。その手つきも、もうだいぶ慣れたものだ。
俺とシーニーは遠慮なく番犬を無視して屋敷へ入って行った。何匹か番犬が追って来ようとしたが、
「おっと、まずはアタシと遊ぼうぜ、ワン公!」
とルージュが立ちふさがった。まるでジャラシのようにメイスを振る。
……お前、その遊び方は猫相手のやり方じゃなかったか?