ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.16 )
- 日時: 2013/09/17 03:37
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)
Chapter 2.
3
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難なく屋敷に潜入した俺とシーニーは、足音を忍ばせつつ暗い屋敷の中を歩いた。
ターゲットの貴族たちは、今の時間帯は眠っているか、自室で勝手に過ごしているのだろう。
使用人はまだちらほらと起きている人間がいる。
調理場で薄く灯りをつけて仕込みをしている料理人や、廊下で簡易な掃き掃除をしているメイド、もろもろがいる。
とりあえず隠れながらそれらの視線をかわし、俺たちは寝室と思われる一つ目の部屋に入った。
「この人ー?」
シーニーが何の警戒もせず普通に声を出す。
だがまぁ、今さらそれは問題ではない。
名目上は『暗殺』だが、俺たちは完璧なプロの暗殺者とは全く違う。要するに仕事はかなーり雑だ。
とりあえず、ただ殺すだけ。
プロの暗殺者ではなくなぜ俺たちのような輩(ディヴィアント)に依頼するのかというと、それはひとえに『まず失敗しないから』だ。
暗殺者は、この時代ではほとんどがノーマルの人間がやっている職業。隠密を得意とした、特別な訓練を受けた人間がやる……のだが、隠密には成功しても結局殺し損ねることがあるのだ。
少し前の時代まではそんなこと全くなかったのだが、最近の『暗殺依頼者』の間では、もはやノーマルの暗殺者よりディヴィアントに依頼したほうがよっぽど都合がいいらしい。
ま、どっちにしろ俺にはそんな業界のことなど知ったことじゃない。
シーニーの声で、眠っていた貴族は起きてしまった。
若い青年で、どうやらこいつがあの依頼人貴族のライバルなのだろう。
「……?おい、なんだお前たちは。新しい見習いの使用人が部屋でも間違えたのか?」
のんきにそう尋ねてきた。
「それくらい平和な出来事ならまだよかったんだがな」
言いながら俺はそいつに近づき、
ボフッ
「ぐぁっ!?」
腹を思いっきり殴った。あまり大きな声はあげさせず、くぐもったうめき声をあげてそいつは気絶。
「シーニー」
俺が呼ぶと、シーニーはあらかじめ持ってきていたあるモノをポーチから取り出した。
それは、小鳥の死骸である。
鍛冶場にある、大きな釘で心臓を一突きにして殺した、そこらへんにいる鳥だった。
俺はそれをシーニーから受け取り、右手で持った。
次に、空いた左手で気絶した貴族に触れる。
そして、次の瞬間。
ぐさっ、
何もない、何もしていないにも関わらず、いきなりその貴族の胸の辺りが、ボコッ、とへこんだ。
かと思うと、そのへこんだ箇所はどんどん穴が開き、血があふれ、あっという間に服やベッドを真っ赤にした。
胸にあいた穴からは、肋骨などの骨が見え、時には折れている部分もあった。そこに包まれるように存在する心臓が、破損して血をまき散らす。こちらにも少し降りかかってきて、俺は離れたくなったがまだ作業の最中なので、そいつの腕は掴んだままだった。
「が……はっ、くかっ」
白目をむいて掠れた悲鳴をあげるそいつ。肺もすでにやられたのだろう。
「これくらいじゃない?」
シーニーが言って、俺は初めて右手を見た。
俺の右手の上には、すっかり怪我の治った小鳥が、ピンピンした元気な状態で手のひらに収まっていた。
可愛らしい黒目をくりくりさせながら、比較的おとなしくしている。もともとあまり鳴かない種類の鳥を選んだから当然か。
俺はやっと左手を貴族から離し、その鳥を持って部屋の窓に寄った。
ガチャ、とあけて鳥をそこから放す。鳥は何事もなかったように飛び立っていった。
そう、これが俺の能力。
俺は呼び方を知らないが、他の奴らは勝手に『移し身』と名付けている。
俺は、最初に手で触れた物の『状態』を、次に触れた物に『移す』ことができる。
まぁ、なんともわかりにくい能力だ。
ようするに、例えば今回の場合、すでに死んでいる状態の鳥、すなわち『死んだ状態』というモノを貴族に移したということだ。
代わりに『死んだ状態』ではなくなった鳥は、元の状態……『生きている状態』に戻り、生き返ったことになる。
これが、俺の移し身の能力。
……この能力の全貌を把握するのに俺の少年時代は費えたと言っていい。ほんっとうにめんどくさすぎる能力だ、もうちょっと簡単にできなかったのか、オイ。
と、そんな愚痴を言っていても今は仕方ない。まぁ、一応グラウほどのオッサン年代になるまでに気づいたからにはまだマシだったか(正確な年齢は知らんが俺は大体20代だ。たぶん)。
「まずは一人目か」
俺がそう言うと、シーニーは急に座り込んだ。
「ん?おいどうしたんだよ」
「おなかすいた」
おい。
シーニーはちょっと退屈そうに座り込んだ。全くこいつは、仕事の最中でもこんなだからな……。
「ったく、いくら暇だからってお前な……」
「だってぇ、なーんか思ったより詰まんないんだもん。『皆のもの、出あえ出あえ〜っ』ってなるかと思ったのに」
お前はどこでそんな予備知識を手に入れた。
とりあえず俺は、シンザから渡されたあの夜食をシーニーに渡した。
「ほら、これでも喰ってさっさと立て、全部喰っていいから。まだ6人いるんだぞ?ロッソとルージュが手伝うとはいえ、ちゃっちゃと終わらせて見つからないうちに帰ったほうがいいだろ」
「見つかったほうが楽しいのに〜」
かくれんぼだって見つけるから楽しいんだよ?とか意味不明なことを言いながら、シーニーは夜食はしっかりいただいた。
ちなみに、夜食は羊肉にマスタードを塗って、レタスで巻いたのをライ麦パンで挟んだサンドイッチだった。
ちくしょう美味そうだな、おい。
「やっぱ俺にもあとでよこせ」「えー全部食べていいって言ったじゃん」などと言ったくだらないやり取りをしていたその時だった。
「主、不審者を見つけました。始末しますか」
「ん、いいんじゃない」
急に聞こえた、女の声と……男女の判別がつかない中性的な声の会話。
次の瞬間、
ズガアアアァァァァァァァンッ!!!!
俺の目の前を、猛スピードで何かが通り過ぎ——シーニーの上半身を、えぐって行った。