ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.19 )
- 日時: 2013/09/18 18:57
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)
Chapter 2.
5
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「アーテル!シーニー!」
「おいっ、スッゲェ爆音聞こえたけど今のなんだよ!?」
騒々しく叫びながら廊下をダダダッ、と駆けてくる音が聞こえたかと思うと、その足音は部屋の前でピタリと止んだ。
それもそうだ、入口に全く認識のない男女が、それもどちらも能面のように無表情で立ちはだかっているのだから。
「え……と?」
「な、なんだお前ら?つうかアーテルは……」
俺はやってきたルージュとロッソに声をかけた。
「部屋ン中だ。あと、そいつらは無害だ。……たぶん」
ひょい、とロッソ……いやルージュが入口から顔だけ覗かせ、「いた!」と叫んだ。まったく、服の色でも見なければ、顔だけだとどちらなのか本当に判別できない。……このあたりさすが双子か。
俺たちのやり取りを、男も女も黙って聞いているだけで何もしなかったので、ロッソとルージュはそのまま部屋に入ってきた。
「あー、ルージュお姉ちゃんはもう終わったの?ワンちゃん」
「おう、全部ホットドックにしてやったぜ!」
「わぁおいしそうだね!」
どこがだよ。
シーニーとルージュの相変わらずな、一見呑気でいて割とブラックなジョークを俺は呆れながら聞いていたが、ロッソは違った。
さすがに入口の謎の男女が気になるらしく(まぁ普通はそうだわな)、堂々と質問していた。
「君たち誰?知り合い?」
すると男は、シレっとした顔で即答した。
「人に名前聞くときは自分から名乗らないのかな。私はどっちでもいいけど」
……なんだか、改めて聞くと少し変わった話し方で話す男だ。声も中性的であるが、その話し方もどちらかというと男女の判別がつきにくいものだ。声だけ聴いたなら、『男』だとはすぐにはわからないだろう。
この男の切り返しに、ルージュだったらすぐに逆ギレしそうなものだがロッソは素直に従った。
「あぁ、それはゴメンね。ボクはロッソ、それとあっちの男みたいな女の子がルージュ」
「よっす」
シーニーとじゃれていたルージュは、軽く挨拶した。
つ、と男は何も言わず俺のほうを見た。お前も名乗れ、ということか。
(結局自分は先に名乗らないで尋ねているんじゃねぇかよ)
内心そう思いつつも、そんなに深く考えるべきことでもないのでさっさと答えてやった。
「俺はアーテル。こっちのガキがシーニーだ」
「そう。覚えた」
男は短くそれだけ言った。
すると、さっきの女が一歩だけ前に歩み出て男の代わりのように俺たちに言った。
「このお方はヴァイスと言う、『魔導師』を全うする者だ。自分はヴィオーラ、主——ヴァイスの使い魔。せいぜい覚えておけ」
だから、なんでそんなに上から目線だ……。
だが、不思議とその態度は女……ヴィオーラに合っているようでもあった。もともと見た目が貴族の令嬢か何かのようだからか。
それにしても。
「魔導師?そっちの男はディヴィアントじゃないのか?」
「私は違う。人間でもない。よって定まった性別もない」
淡々とヴァイスは答える。定まった性別もない……って。
そうか。俺は、何となくコイツを最初に見た時の、直感で思った印象が裏付けられたような気がした。
ヴァイスは必要最低限のことしか話さないのか、以降はヴィオーラが勝手にこう話してきた。
「主は依頼でこの屋敷の特定者を殺す、という仕事を全うしていた。貴様らも同じ目的か?」
「あぁ。元は俺とシーニーに依頼されたクエストだが、ロッソとルージュにも応援として手伝ってもらうはずだった。……が」
ヴィオーラも俺と同じことを悟ったようだった。
「『対象』がかぶったようだな、ディヴィアント共」
「ああ。依頼主の不手際か……チッ、どっちにしろあの貴族、ホントぽんこつ以外の何者でもねぇな」
「不本意だが自分も同意見である。——如何いたしますか、主」
最後はヴァイスのほうを振り返って、ヴィオーラは尋ねた。
シーニーと双子(もうこれからまとめて『ガキ3人』とでも呼ぼうか)は、会話の担当は完全に俺に任せて後ろで静かにしている。
「美味いなこのサンドイッチ!」
「む、ちょっと血付いちゃってるけど美味しいね、なかなか」
「あー、それたぶん僕の血だー♪あはは、美味しい?」
……オイ。
茶番は無視して、ヴァイスはヴィオーラの問いかけに答えた。
「私たちの出番はもう特にないと思う。勝手に殺されたし」
先ほど俺が殺した貴族の息子を、道端の石でも見るような無機質な目つきで一瞥した。どうやら、ヴァイスへのクエストではもうノルマを越えたようだった。
ヴァイスは身をひるがえした。
「帰る」
「承知」
この上なく短いやり取り。それだけ残して、魔導師とその使え魔は勝手にいなくなってしまった。
(……まぁ、なんにせよ、意外とそこまで敵対性もなかったから別にいいか)
俺がそう思っているうちに、シーニーが呼んできた。
「ねー、僕たちももう帰ろうよ?夜食全部食べ終わっちゃったし」
「待てって。まだ1人、依頼されたヤツがいる」
「あ、そっか〜」
忘れてどうする。
と、いうか。あーくそ、結局俺だけサンドイッチ食べ損ねた……。
そんな折である。
ダダダダダッ、
「むぐ、今度はなんだよ?」
口の中にまだ残っているサンドイッチを租借しながらルージュが言った。
『ご主人様ー!』
『今の轟音はいったい!?』
『ご無事ですかぁーっ』
「…………」
沈黙が降りる。
ポツリ、とロッソが一言。
「……帰ろうか」
と、いうわけで。
俺たちはその後、全力で撤退した。
「あの魔導師、タイミング図ったな!?」
「決めつけるのはよくないでしょー、あの人自身も予期していなかっただけかもだよ?」
「あはは!鬼ごっこ楽しーい♪」
「つうかなんで逃げるんだよー?全員ブッ殺せばいいじゃんかよ!」
ぎゃーぎゃー騒がしく、夜の貴族街の街道を俺たちは駆け抜けて行ったのだった……。