ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.2 )
日時: 2013/09/17 03:34
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)

Chapter 1.

1

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まず、この世界には人間が主に暮らしている。
ただ、ここでいう『人間』とは一般的に2種類の人間が存在する。

1つは、何の変哲もない普通の『人間』。彼らをこの世界では『ノーマル』と呼ぶ。まぁそのまんまだな。

そして問題の2つめ。
こっちの人間は——生まれつき、どこの種族の生き物も持っていない超人的な能力を持っている。
シーニーの『蘇生』の能力がその一つだ。
こういった、能力を持った方の人間は『ディヴィアント』と呼ばれる。
異常、という意味だそうだ。……若干文句がなくもない呼び方だが、それは仕方がない。
ノーマルの人間からすれば、俺たちは異常者でしかない、まさしく怪物のような存在だからだ。

そう、シーニーもそうだが——俺も、ディヴィアントの一人でもある。
もちろん先ほどのグラウもそうだ。

ここは、ディヴィアントたちの住む『街という名の無法地帯』だ。

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「アーテル〜」

その日の午後、グラウの家で昼飯を食った後外をブラブラしていると、シーニーが俺に話しかけてきた。

「んぁ?なんだよ」
「暇」

シーニーは短く簡潔に言った。

「あ、そ」
「うん。暇なんだけど」
「…………」
「暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇ひm」
「だー、わかったからいったん黙れ!」

……会話でよかった、ホント。今のセリフを文字にしたら、かなり気持ち悪い文章になっていたぞ。

「なんかして遊ぼうよ〜」
「はぁ〜?……目玉でもくり抜いて転がしてろよ」
「おっけー、じゃぁアーテルからやって♪」
「ぶん殴るぞコラ」

あのな、『蘇生』の能力を持ってない俺がそんなことやったら死ぬぞ、普通に。
まぁ、シーニーも最初から本気にしていたわけではなく、すぐにあきらめた。それでも暇そうなことに変わりはない。

「新しい『クエスト』ってないのかな?」
「まだ出勤命令は出されてねえよ。久々の休日だぞ、むしろ喜べ」
「うえ〜〜〜、ヤダ。つまんない」

駄々っ子のように、というかまさにそんな感じでシーニーは俺の周りをちょこちょこ走り回った。……あぁ、めんどくさいホント。

ここで、クエストや俺たち『タッグ』について説明してみる。
クエストとは、まぁ俺にとっての『仕事の依頼』だ。
俺とシーニーは1組のタッグを組んで、便利屋のような仕事をしている。
というか、この世界でディヴィアントのほとんどは、誰かペアを見つけてそいつと『クエスト』なる仕事をこなす。
それくらいしか、働いて金を稼ぐ方法がないのだ。ノーマルの人間なら普通に勉強して、修行して、仕事について、家族を持って……といったことができるが、ディヴィアントはなかなかそうはいかない。
理由なんか知らん。そういう社会だからだ。俺が生まれる前から決まっていたようなモンだな。

ちなみに、なれ合いを嫌って誰ともタッグを組まず、一人で過ごす孤高のディヴィアントも当然いるにはいる。ただ、そういうヤツは真っ先に他の『集団』のエサとして狙われやすい。
……こんなガキとわざわざタッグを組んでいる俺も、割と例外でもないのだが。

それでも、俺はシーニーとタッグを組むことに利がある。
その理由の一つとして、『蘇生』の能力は、ディヴィアントの中でもかなりレアで便利な能力だからだ。
もう一つは……まぁ、またいずれ。

「グラウおじさんに聞いてもクエスト、なかったしな〜」
「だろうな。グラウが『ない』っつったらないんだよ、いい加減わかれよ」

グラウは本職は鍛冶屋だが、情報屋でもある。ガキ2人でしかない俺たちがクエストにありつけるのも、彼がその人望を使って仕事を集めてきてくれるからだ。
正直言えば、グラウにはかなり恩がある。真昼間から酒樽片手に雑な鍛冶仕事をやってる偏屈なオッサンだが。
補足だが、グラウのペアはおかみさんのシンザという女性だ。
……間違っても『おばさん』と言ってはならない、彼女は立派なレディ、女性である。

閑話休題。

そんなこんなで、俺とシーニーはこの日、かなり暇を持て余していた。