ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.24 )
- 日時: 2013/09/20 19:31
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)
Chapter 3.
2
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「そして今日も平和な定休日、っと」
空を見上げながらポツリと俺は呟いた。
俺は朝食を終えた後、散歩がてら近くの河原に来ていた。シーニーも若干遅れてちょこちょこと付いてくる。
別に、タッグというのは必ず2人一緒に行動しなければいけないわけではない。むしろ、仕事のときのみしか会わないという奴もいるくらいだ。
だが、シーニーは何かと勝手についてくる。まぁ、この町に来てまだ日も浅いのもあるのだろう。
「暇だねぇ。昨日のでクエストももうないみたいだし」
言いながらシーニーは、おやつ代わりにともらってきた余ったスコーンの入ったバスケットをぶら下げて小走りに俺の横に並ぶ。
歩幅が若干違うので、俺は普通に歩いていてもこいつは小走りになるのだ。だからと言って合わせるつもりも特にないが。
それにしても。
「最近、割と不景気だな?仕事が少ない時期、と一概に言うにしては」
「んー?そうかな。……あー、そうかも」
河原のそばの、芝生が茂っている坂道に降り適当なところで座る。
シーニーも隣に座ると、さっそくバスケットをカパッ、と開けて嬉しそうにスコーンを取り出した。しっかりジャムのビンも持ってきている。
……お前、ついさっき食ったばかりじゃなかったのか。
「まぁ、そう悩むことでもないか……」
ごろりと寝転がって再び呟いた。昨日のクエストなどで、報酬はかなりもらったのでしばらくの生活に困ることはない。仮に生活資金が尽きてしまっても、最低限グラウ夫妻の家で居候させてもらえるのでやはり問題ない。
もし他のディヴィアントだったら死活問題な状況だが、こういうときはグラウやシンザといった知り合いがいて本当によかったと思う。
「はい、アーテルにもー」
「ん?ああ、サンキュ」
マーマレードが塗られたスコーンを一つ差し出されて、寝転がったまま俺はそれを受け取り頬張った。
河原に人気はなく、水の流れる小さな音とどこかにいる鳥の鳴き声、あとはほとんどの音が聞こえない。
平和だ。
(いっそのこと、ずーっとこんなだったらな……)
ボケーっとしながらそう考えた。
なぜか勘違いされがちだが、俺は基本的に平和主義者だ。生活するのに戦いやら人殺しやらが不必要な暮らしができるとしたら、ぜひそうしてみたい。
だが、『異常者』として生まれたからにはそれもたぶん叶わないのだろう。
今はグラウの家で居候させてもらっている俺たちでも、いつかはあの夫婦だって先立って死んでしまうだろう。それに、居候といってもそれなりに働いて食費程度は稼がなければあちらが破産してしまう。
「嫌な世の中だな、ホント」
「もぐもぐ、そだねぇ。お仕事少ないし」
「そっちじゃねぇ」
そのうち昼近くになり、そろそろ日差しの当たりも若干暑くなってきたので俺たちは河原を後にした。
- - - - -
「よっす!シーニーにアーテルじゃねぇか」
町に戻ると、さっそく声が上から降ってきた。
屋根の上にいる、ルージュからだ。当然のごとく隣にロッソ。
またまた気づかずに、周りをキョロキョロしだすシーニーに「だから屋根だっての」と教えて、双子を見上げた。
「とことん不景気だわなぁ、お前らもだろ?」
「ああ。俺としては逆に喜ばしいがな」
そう言ってやると、ルージュは心底理解できないと言った風に顔をしかめた。ロッソが隣で「アーテルは平和思想だから」と苦笑しながら言っている。悪かったな、平和思想で。
「お前らも、昨日の報酬は山分けしたんだからしばらくは生活にも困らねぇだろ?」
「まぁね。久しぶりにパン一個だけじゃなくサラダも朝食に付け足されたよ」
「アタシは肉が喰いたい、つったのにさ〜」
朝っぱらから肉って……。
そう言う感じで、屋根の上の双子と地上から、という奇妙な立ち位置で世間話をしていた時だった。
「すみませ〜ん、もしかしてあなた方は、『ディヴィアント』さんでしょうか〜?」
急に話しかけられた。
振り返ると、俺の後ろには一人の少女と、その背後に白衣を羽織った男が立っていた。
少女は肩につくくらいの明るい緑色の髪をした、シーニーより少し年上だが双子よりは年下といった容姿。男は、眼鏡をかけていてまるで笑っているように細い目をしていた。というか、雰囲気そのもが柔らかく優男然とした容姿で、この少女の兄というよりまるで父親のような男だった。
「俺たちのことか?」
俺が聞き返すと、さっき話しかけたらしい少女はニッコリ笑って「そうです〜」とのんびりした声で答えた。
すると、後ろに立つ白衣の男は軽く会釈して口を開いた。
「ちょっと聞きたいことがあるんです。お時間はそんなにとらないと思うので」
「はぁ……?」
戸惑いながらも、どうせ暇だったので俺は彼らに付き合うことにした。
小声で少女が男に、「よかったです博士、いい人そうですよ〜」と話しかけていたのが聞き取れた。
……博士?とはいったいどういう意味なのか。
とにもかくにも、俺とシーニーはいったん双子と別れて(後で経過を報告するようにとしっかり言われた)、男と少女について行った。