ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.26 )
日時: 2013/09/20 21:19
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)

Chapter 3.

3

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先頭を歩く男は、適当なオープンカフェ(といってもかなりさびれて小さくしょぼいものだが)を見つけて、そこの席をとった。
丸テーブルを囲むように座る。

「さて、自己紹介が遅れました。わたくしはアスール、こちらはクローロンと言います」

男は元からの顔立ちもあるが、にこやかに笑いながらそう紹介した。クローロンと紹介された少女も、やはり愛想よく会釈する。

「俺はアーテル、んでこっちが……」
「シーニーだよ〜。よろしく!ハカセさんにクローロンちゃん」

シーニーが元気よく言うと、クローロンは驚いたように言った。

「え、どうして博士がハカセだってわかったんですか〜?」
「クローロンちゃんがそう呼んでるじゃない」
「あ、なるほど〜」

かなりほのぼのした雰囲気で会話する2人。年も近いこともあってか、お互い話しやすそうだった。
俺はアスールに尋ねた。

「で、聞きたいことってなんだ?」
「ええ、いくつか質問に答えてもらうだけです。……この用紙に、回答を」

そう言ってアスールは鞄から、1枚の紙を取り出した。
かなり質の良い羊皮紙だ。そこに、いくつかの項目の質問が並べられている。アスールはシーニーにも同じものを渡した。
続けてクローロンが「はい、これもどうぞっ」とペンとインク渡してくる。なぜかピンク色の、可愛らしいペンだった。迂闊に汚せないじゃないか……インクは黒なのに。

「メニューも何か決めていいですよ。質問に答えてくださるお礼にわたくしが支払います」
「ん?ああ、ありがとう」

とりあえず俺はコーヒー、シーニーはケーキを頼んだ。
質問項目は、まぁ簡単なアンケートだった。
『毎日、主に何を食べているか』『一日に何回の食事か』『能力維持として何かのトレーニングは行っているか』……などなど、etc。

最初は何かの健康診断かと思ったが、たまにノーマルの人間にはまず質問しなさそうな、ディヴィアント特有の質問などもあってますます謎だった。『能力が備わっていることを自覚したのは何時ごろだったか(覚えている範囲でどうぞ)』なんてのもあった。

当たり障りのないことをサクサクと書いて進み、最後の『今の国に不満を持っている』というところで「No」を選択して、アンケートを終了した。
シーニーは書くスピードが遅いため、まだ紙面とにらめっこしていたが俺は先にアスールに紙を返した。
ちょうどウエイトレスが頼んだものを運んできたので、休憩とばかりにコーヒーに口をつける。

アスールは一言礼を言って、すぐに俺の解答欄を読み始めた。
隣でもクローロンがそれを覗き込んで、何か別の用紙に写している。時折その写しをアスールは見比べて、クローロンに「ここはこう記録しておいて」などと指示していた。
やがてシーニーもアンケートの回答を終えて、アスールは2人分の解答用紙を手に入れた。

「ご協力ありがとうございます。それでは、わたくしたちはこれで」
「ありがとうございました〜♪」

ペコリとお辞儀をする2人。
だがその前に俺は引き留めた。

「おい、ちょっと待てって。結局それ、何の調査なんだ?教えられないくらいの機密事項なのかよ?」

俺がそう言うと、シーニーもケーキを食べながら「あー、僕もそれ、ちょっと気になった〜」と便乗した。

アスールは、少し困ったような顔になったが(とはいえ、やはり笑ったような顔立ちなので微苦笑のようだったが)、クローロンがアスールの白衣の裾をちょっと引っ張って言った。

「やっぱり博士、この人たちにはお話しませんか〜?今までのディヴィアントさんたちとはちょっと違いますし〜」
「う〜ん……でもねぇ、クローロン」
「ロンはこの人たちを信じたいです〜。大丈夫、ロンの直感は外れませんよ!博士の『最高傑作』なんですから!」

意味深な会話をして、アスールは俺たちに確認をとってきた。

「決して知ってはならない機密事項、ではないのですが。『ディヴィアント』の方にとっては、あまり愉快ではないお話だと思いますよ?」

ディヴィアントにとっては愉快ではない話。
つまりは……

「国絡み、ってとこか。アンタやっぱ、ただの一般科学者ってワケじゃないんだな」

俺が言うと、アスールは苦笑した。
シーニーは「聞きたーい、話してよ!」と、大人たちにおとぎ話をせがむ子供のように無邪気にねだった。

「では、お話しましょう」
「わーい、やったやった♪」
「馬鹿、フォーク振り回すなっつうの」

俺とシーニーのやり取りを、クローロンは微笑みながら眺めていた。
アスールは立ちかけた席にもう一度座り直し、俺たちに『事情』を話し始めたのだった。