ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.28 )
- 日時: 2013/09/21 13:21
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: Q4WhnRbg)
Chapter 3.
4
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「調査?ディヴィアントの?」
俺が聞き返すと、アスールは肯定した。
「はい。わたくしは国立のある研究機関に所属しています。そこにいる科学者の中で、代表としてわたくしがこの町……ディヴィアントの居住率の高いこの町に調査員として派遣されたのです」
「国王サマが直々に命じたのです〜。とーっても名誉なことなのです!やっぱり博士は天才ですから〜♪」
隣で誇らしげに言うクローロンをちょっとたしなめつつ、アスールは説明を続ける。
「国王様の目的は、ディヴィアントについての生態を解明すること。この研究は、成功次第では現在のノーマルの人間たちにとって大きな貢献につながるのです」
アスールの言い分によるとこうだ。
ディヴィアントは、本来の人間ならあり得ない超能力を持っている。その超越した力を、ノーマルの人間にも自由に扱えるようになれば、国どころか世界中の発展の役に立つだろう。
……まぁ要するに。例えば、ルージュみたいな『怪力』を使えれば、船や家などの建築関係の人間には大助かりだし、シーニーの『蘇生』能力なんて医療機関では救いの神に等しい。
「それで、質問なんかに食事の内容だの、特別なトレーニングでもしているのか否かだの、いろいろ書いてあったんだな?」
「はい。そういった条件なら、ノーマルの人間にそのまま指導すればいいだけなので」
しかし残念ながら、ディヴィアントの能力維持に、そんな健康的な条件などまったく必要ない。
なぜなら、これはもう本当に生まれつきだからだ。そうとしか言えん。
むしろ、不健康な食生活で能力が消えてしまうんだったら俺は今日からさっそく断食でも始めるぞ。
アスールは解答用紙に再び目をやって、「うーん、そうですか……」と呟くように言った。
隣でもクローロンが同じように紙を覗き込む。
「今のところ、全員のディヴィアントさんが同じような回答ですねぇ……。やっぱり、『生まれつき』としてもう変えられない、決定事項なんでしょうか〜?」
「そうだね……。まだ研究が足りないのか、それとも国王がお考えになっていることはやはり無謀なのかな」
柔和な優男風な顔立ちに、真面目な表情を浮かべてアスールは呟く。私語では普通に敬語ではないようだ。
俺はふと、最初に思った疑問を尋ねた。
「そういえば、お前最初に『ディヴィアントにとっては不愉快になるかもしれない』って言ってなかったか?」
「え……あぁ、そうでしたね」
紙面から顔をあげてアスールが答える。
「いえ、普通の方は自分たちの生態についてが、動物のように観察されていると知ると不愉快になるものなのですよ。アーテルさんやシーニー君はそうでもなかったようですが」
そういえば意外ですね、わたくしも少し驚きました、とアスールは付け足した。
シーニーが不思議そうに言う。
「えーなんで?他に何かされるわけでもないのに」
「皆さんが皆、シーニー君のような考えではないということですよ。おそらく、実験動物のように扱われることが不愉快なのでしょう。わたくしも同じ立場なら、あまりいい気分ではありませんから」
苦笑しながらアスールは答えた。
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「あのぉ、そういえば〜」
クローロンが思い出したように、尋ねてきた。
「先ほど、アーテルさんたちとご一緒していた赤髪さんたちはご友人ですか〜?」
「赤髪……?あぁ、双子のことか」
「ロッソお兄ちゃんとルージュお姉ちゃんだよ〜」
と、そこで俺は思い至った。
「そういやアスール、調査の参加人数って多いほうがいいのか?」
「はい、できれば多くのサンプル……いえ、解答者の協力がほしいところです」
「んじゃ、ついでだしあの双子にも紹介しとくか。どうせ暇人だし」
シーニーも俺のその発言に賛成した。
クローロンは「あ、じゃぁやっぱり〜」と確認するように言った。
「ああ、あの双子もディヴィアントだぜ」
「あと、グラウおじさんとシンザさんもディヴィアントなんだよ♪そうだ、ハカセさんとクローロンちゃんもおいでよ!僕とアーテル、そこに住んでるんだ!」
シーニーのその言葉にクローロンは目を輝かせた。
「わぁ、いいのですか!?ロン、同い年の方のお家に行くのは初めてなのです〜♪」
「じゃぁロッソお兄ちゃんたちの家にも遊びに行こうよ!どっちも楽しいよ〜、遊び道具たくさんあって……」
はしゃぎながら楽しく話すシーニーとクローロン。
ホント、ガキは無駄に元気が有り余りすぎるな……。
俺はちょっと苦笑しつつ、そう話しかけようとアスールを見た。
すると、彼はクローロンたちをまるで泣きそうな、しかしものすごく嬉しそうな、そんな感情がごちゃまぜな表情で眺めていた。
「え、おいどうしたんだよアスール!?」
俺が声をかけるとアスールはハッとなって、慌てて眼鏡を外して目に浮かんだ涙をぬぐった。
「いえ、何でもありません!どうかお気になさらずっ」
逃げるようにそう言ってごまかした。
……謎の魔導師の次は謎の科学者、ってとこか。
シーニーに「アーテル何やってるの〜、早く早く」と急かされた俺は、3人の後を遅れてついて行った。