ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.29 )
- 日時: 2013/09/21 13:19
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: Q4WhnRbg)
Chapter 3.
5
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俺たちはいったん、先ほどの町の大通りに戻ったが、屋根の上に双子はいなくなっていた。まぁ、ちょうど昼時でもあるし帰ってしまったのだろう。
余談だが、ロッソとルージュは一軒家に2人暮らしをしている。もともと両親と4人でその家に暮らしていたのが、何らかの事情で両親は2人ともいなくなってしまったらしいのだが……。まぁ、そのあたりは俺も知らん。
というわけで、俺とシーニーは先にグラウの家へアスールとクローロンを案内した。
「ここだよ〜、あっちの工房がグラウおじさんの仕事場。で、こっちが僕たちが住んでるお家!」
「わぁ、木造ですね!『電子映像』でしか見たことがなかったので新鮮です〜♪」
『でんしえいぞう』……って何だ。
苦笑しながらアスールが「写真や絵のようなものです。科学者や専門家以外の方にとっては馴染みがあまりないと思いますよ」と説明した。
……まぁ、都会にはいろいろあるってことだな。ここ田舎だし。
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家の中では、シンザが掃除をしているところだった。
「あぁ、お帰り。ん、客かい?」
「ただいまー!そう、お客さん♪」
アスールとクローロンは、驚いて玄関で立ち止まっていた。俺は思わず吹き出す。
「どうしたんだいそのお客さん?」
シンザは心底不思議そうに言う。
アスールは少し言いにくそうに、それでも珍しく細い目を少し見開いていたりはした。代わりにクローロンが、シンザを指さして言う。
「あ、あのぉ……もしかして、ポルターガイストですかっ?」
そう、この2人がポカーンとしている理由。それは、シンザ自身にあった。
シンザの半径1メートルほどを、取り囲むように宙に浮く塵やゴミ。床に転がしてあった、グラウの捨てたらしい酒の空き瓶もフワフワ浮いている。
そして、シンザが歩いて移動するたびに壁や床についたシミなどの汚れが剥がれるように浮き上がって、シンザの周りで起こるポルターガイストに加わった。
そう、つまりこれがシンザの能力『清掃』だ。
文字通り、お掃除中である。
シンザが汚れやゴミなど、『取り除きたい物』を認識するとそれが勝手に剥がれ落ちて寄ってくるのだ。ちなみに、周りを浮遊するだけでシンザ自身はまったく汚れない。少しインパクトには欠けるが、それはそれだ。
シンザもやっとそのことに気づいて、「あぁ」と笑いながら話した。
「珍しい能力だろ?ディヴィアントにしては何の戦いの役にも立たない、主婦専用能力ってとこだね。うらやましがる奴はいないけど、珍しがる奴はよくいたねぇそういえば」
「ええ、……とても珍しいですね、これは」
クローロンはすぐに驚きから立ち直って、人懐っこくシンザに話しかけた。
「とっても平和的な能力ですね〜!世の中の奥さんがみんな喜びそうです!」
「おや、そう言ってくれる子は珍しいね。たいていの子供はみんな『しょぼい』だの『いらない』だの言ってくるのに」
「そんなことないですよ〜、ロンも欲しいくらいです!それで博士のお部屋をお掃除するのです!とっても散らかってるのです〜」
「ちょ、クローロン……!」
慌てるアスール。思わず家には笑いで満たされた。
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グラウは工房で鍛冶作業をやっているところらしく、今しばらくは相手ができないそうなので、シンザに先にアンケートに答えてもらった。
その間、再びシーニーとクローロンは談笑したり遊んだり、自由に過ごす。
「そういえばアーテルさんは、シーニー君のお兄さんか親戚の方なのですか?」
ふと、暇を持て余していた俺にアスールが問うてきた。
「ん?いや、アイツはただのタッグだ」
「え、……親戚ではないのですか?」
意外そうに尋ねてくるので、俺は苦笑しながら答えた。
「タッグだからって必ず肉親とは限らねぇよ。しいて言うなら、『拾ってきた』って感じか」
アスールは「そういうものなのですか……」と意外そうに呟いていた。
逆に今度は俺が聞いてみた。
「そう言うアスールとクローロンはどうなんだ?やっぱ親子なのか?お前らは」
「うーん、そうですねぇ……あえて言うなら『親子』、なのかもしれません」
アスールは、そう曖昧に答えた。
どういう意味だ?怪訝に思っていると、アスールはサラリと答えた。
「クローロンは、わたくしが造ったロボットなんです」
「は?」
え。
お前は今何をのたもうた。
相変わらず笑ったような細い目で、温和な笑みを浮かべながらアスールは普通に続ける。
「偉そうに調査だアンケートだ、と言っておいて何だとは思いますが。実は、わたくしもディヴィアントなのですよ」
……まずますワケがわからん。
「ちょっと待て、何、どういう意味だ!?」
「落ち着いてくださいアーテルさん」
いや普通驚くだろ!何のんびり笑ってるんだこの人!(地顔なのかもしれんが)
俺がちょっとした混乱に陥っていると、シンザが「できたよ」と解答用紙を渡しに来た。
アスールはその記録にさっそく没頭してしまい、どうやら続きはまた後になりそうだ。
……何なんだ、ホント。