ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.33 )
日時: 2013/09/21 22:45
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: Q4WhnRbg)

Chapter 4.

1

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「じゃぁかくれんぼしよう!じゃんけんで負けたほう鬼〜」
「了解です!いきますよ〜、じゃーんけーん……」

わいわいと騒ぐシーニーとクローロンを改めて眺めやる。
確かに、敬語で話したりと普通の子供にしてはかなり礼儀正しいが……。それにしても、まさかあの少女が『人の手によって造られた物』とは到底思えない。
どこからどう見ても、人間の少女だ。
そもそも、見た目だけでもあそこまで人間に近い物を作るなんて不可能のはず……。
俺のそんな胸中を察したのか否か。
紙面に目を落としながら、顔も上げずにアスールが話してきた。

「わたくしの能力は、『命宿』というんです。『命を宿す』、つまりわたくしが造った物や無機物には命が宿るのですよ」
「……要するに、人間の心を持つ、っていう感じか?」
「そうですね、そう表すのが妥当でしょう」

ニッコリ笑いながらアスールは肯定した。

「わたくしはもともと運が良かったらしく、この能力を自覚する前に科学者として国に認められていたんです」
「んじゃあ、お前の能力のこと、国は……」
「国王様は認めてくださいましたよ、例外的に。必死で勉強して、優秀な科学者を目指しただけありました。『異常者でも、お前くらいのレベルの科学者なら手元に置いておく価値がまだある』と」

なかなか変わった事例だ。ディヴィアントは基本的に、そういった国や政府に関わる機関には問答無用で入れないことが殆どだ。
一応、このような例外はあると聞いたことはあったが、実際に目の当たりにしたのは初めてだ。

ディヴィアントだからといって、必ずや本人が自覚するとは限らない。
実はディヴィアントの能力は、遺伝しない。だから、ノーマルの人間からディヴィアントの子供が生まれてしまうことも普通にあり得るのだ。
ただ、周りも本人もそれに気づかず、結局一生ノーマルだと思ったまま生涯を終えてしまうパターンもあるにはある……らしい。
俺の知り合いにも、『一度死んでしまっても生き返れる』能力を持った奴がいる。そいつも、「一度死ぬまで自分はノーマルだと信じ切っていた」と言っていた。

「んで、お前が造ったロボット……クローロンに、本物の『心』が宿ったわけか?」
「ええ。初めて能力を自覚したときは本当に驚きましたよ。今まで料理などを作って食べるとき、いつも変な感じはしていたのですが。アレも能力だったとは」
「おま、作った料理食ったのかよ!?人間の心を持った奴を?」
「はい。『殺さないでー』とか『噛まないでー』といった声は聞こえましたが、幻聴かと思っていまして……」

ニコニコ笑いながら話すアスール。
……なんだろう、こいつは生粋の天然か?

俺のそんな様子は全く気にせず、アスールは続ける。

「クローロンは、わたくしの最高傑作なのです。限りなく人間を再現した型(モデル)、そして能力を使って宿した『心』。それからさらに、数年の時間をかけてあらゆる学問教育を施しました」

シーニーと無邪気に遊んでいるクローロンを見つめるアスールは、本物の親のようだった。

「あの子は、わたくしの娘です。ロボットですらありません、心を持っているのですから」

俺は、アスールがクローロンに対して何か、尋常ではないほどの思い入れがあるように感じた。

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掃除を終えて、一点にゴミを収束させて片付けたシンザが戻ってきた。

「悪いね、ハカセさん。グラウはまだ時間がかかるらしくて……」
「いえ、お気になさらず。押しかけてきたのはこちらですから」

シンザは久々の客に気を利かせて、コーヒーのカップを一つ取り出した。俺の分もリクエストしたが「居候の賄いは朝と夜だけだっての」と却下。酷いなオイ。

と、そんな風に談笑していた時だ。

バン!と勢いよく家のドアが開いた。
続いてドカドカと入ってきたのは、ロッソとルージュ。

「アーテルいる!?」
「いたー!あ、あのハカセもいたじゃん、ロッソ!」

突然の騒々しさに、隠れ場所を探していたクローロンが驚いて玄関を振り返る。鬼になったらしく目隠しで数を数えていたシーニーも、目隠しを外してしまった。

「なんだい、騒がしいね」

シンザが呆れたように言うのも聞かず、ロッソは中にずかずか入ってきた。

「急いで逃げたほうがいいよ、そこのハカセさん。なんか嫌な雰囲気のファンが追っかけてきているからさ」

急なことで驚いているアスール。
しかしロッソもルージュも、珍しいくらい真面目な顔だ。

その後、代わりに俺が尋ねて双子から聞き出したのはこうだ。

先ほど、双子に話しかけた妙な黒服の男たちがいた。
都会から来た匂いがする、とかルージュは言う。とにかくそいつらは、アスールを探しているようだった。
双子は一応知らないと答えたら、さっさとどこかへ去ってしまったらしいが……気になったので、こっそり後を付けてそいつらの会話を聞き取ったらしい。
その会話の内容が……

『このあたりに派遣されているはずだ』
『何が何でも見つけて、今日こそ消すんだぞ、いいな?』
『あの科学者さえいなければおれたちは……』
『いいから探せ馬鹿。報酬はもうもらっているんだぞ』

……といった風のものだったらしい。

「完全にヤバい系の奴らじゃねぇか」

むしろ、ヘタな大道芸人の舞台なみにつまらん『よくあるドラマ』だ。
だがこれは台本(シナリオ)なんかじゃない。現実の出来事だ。

「そういうわけだから。一応さっき見かけたよしみで教えてあげたよ。どうするかは君次第だけどね、ハカセさん」

ロッソにそう言われ、アスールは柔和な顔にやや厳しい色を添えて何か考え込んだ。
やがて、荷物を素早くまとめて、クローロンに声をかける。

「クローロン、急いで帰ろう」
「え、でも博士……」
「おそらく『アイツ』の差し金だ。君の生存にも関わる、急ごう!」

クローロンはややこわばった顔で、それでもアスールの指示に素直に従った。
アスールは簡単にシンザに礼と謝罪を述べ、玄関を出ていこうとした。

「……アーテル」
「ん?」

シンザが話しかける。

「追わなくていいのかい?明らかに危なっかしそうだったよ、あの2人」
「……言われなくとも」

俺はシーニーのほうを見た。
シーニーは、遊び道具もすっかり片付けて外出の準備は万端だった。

「よし行くか」
「りょうかーい♪」

バッ、と俺とシーニーは、アスールたちを追いかけて外に飛び出す。

「おっと、ボクたちももちろん手伝わせてもらえるんだよね?」
「面白そうじゃん!アタシらを無視すんなっての!」

後ろからロッソとルージュのそんな掛け声が聞こえる。
ま、タダ働きだが……休日ならこの程度がちょうどいいか。どうせ暇だし。