ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.4 )
日時: 2013/09/17 03:35
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)

Chapter 1.

3

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しかし、そんな平和もやはりここではすぐに終わってしまう。
現実だけではなく、こんな子供のごっこ遊びでもそんな『規則』が通じてしまうのだからこの世界はゴミ同然だ。

突如、俺たちの前にけたたましい音をたてて馬車がやってきた。
6、いや8頭立て?とにかくたくさんの馬を従えた、貴族が乗るような無駄に豪華な馬車だ。

「うわっ!?」
「あっと、ルージュ、シーニー、危ないから」
「わ、びっくりした〜」

ロッソとルージュ、シーニーは急いで馬車を避けた。一応俺もそこに駆け寄ったが、轢かれることはなかったようだ。

「あぶねぇな、なんだアイツら……」

俺が思わず悪態をつくと、急にその馬車は急停止した。
なんだ、と思っていると、御者が急いで馬から降り、馬車の扉を開けた。
御者はすぐに恭しく跪く。

すると、馬車の中からは、アホ丸出しに威張りながら一目で貴族だとわかる男が出てきた。
ふんぞり返って無駄に偉そうなその態度は、本人は威厳を持っているつもりだろうが客観的に言わせてもらえば、滑稽以外の何物でもない。

その貴族のボンボンらしき男は、俺たちを見下ろし、——俺を見るときだけ背が足りなくて見下ろせず、無理やり背伸びしたが結局足りなかったのであきらめた。あ、馬鹿だなコイツ。

コホン、とそんな空気を紛らすように、従者らしい御者が咳をした。
そして、ササッ、と男の前に進み出ると、「なんだこいつら?」と一斉に思っている俺たちに話し始めた。

「えー、コホン。貴様たち一般市民よ、まずこの場に居合わせていたことを感謝しなさい。貴様たちはこれから、この若旦那様の手による栄光にあずかることが許されたのだ!」

大袈裟な態度で御者は言うが、
……俺たちは、例外なく「ハァ?」という顔をしていただろう。
当然、それが顕著に表れたのはやはり——ルージュだった。

「なんだオッサン?つうかそこ、戦争ごっこやるのに邪魔なんだけど。どっかに失せろっつうの」

毎回思うが、本当にルージュのこの言動は彼女が女であることを忘れかける。どうせ本人も自覚済みなほど、中身も男そのものなのだが。
しかし、そんな事情は知らない貴族の男と御者は、途端に顔色を変えた。
御者は思いっきり青ざめ、貴族は怒りで顔を真っ赤にしたのだ。ここまで息がぴったりなコントラストもなかなか見れた物じゃないな。

「な、な、何を言った貴様!?この方は、かの大富豪・レドリーア家の次期当主様であられるぞ!その若旦那様にむかって、なんて口の利き方を……」
「だからぁ、それがなんだっつうの。アタシ頭悪いからいまいちよくわかんないんだけど?」

すると、おもしろいと踏んだのかルージュのその言葉にロッソまでもがのった。

「んー、別に頭の問題でもないんじゃない?どっからどう見てもこの人たち、甘やかされてまともな教育も受けなかった馬鹿貴族だし。ボクたちと意志疎通さえできないのもそのせいだと思うよ」
「ああ、なーるほど!ロッソやっぱ頭いいな、お前!」

ロッソは微笑を浮かべて肩をすくめて見せ、ルージュは本気でロッソの言うことを真に受けて目を輝かせた。……どっちもどっちだな、ホント。

俺やシーニーは、そんな2人にあきれてむしろ少し笑ってしまったが、貴族たちはそうはいかなかった。

貴族は、もうタコみたいに顔を真っ赤にして御者に命令した。

「この無礼者を、皆殺しにしてしまえ!」
「当然です!すぐに抹消しましょう!」

御者が叫ぶと、なんと今度は馬車の別口から、何人もの屈強な男が現れた。身なりからして、雇われた傭兵か山賊、といったところだろう。

(……結局この貴族、最初に何の用があったんだよ?)

俺は密かにそう思っていたが、それどころではなかった。

「へーえ、暇つぶしにはなりそうだね。よかったじゃない、ルージュ」
「おう!思いっきり暴れていいんだよな、ロッソ?」
「もちろん」

不敵にそんな会話をする双子。
そんな彼らを見て、すかさずシーニーは俺を見上げた。

「アーテル、僕も遊びたい!」

碧眼は星をちりばめたようにキラキラ輝いている。まるで遊園地に連れてこられた子供だ。……シーニーにとっては、似たような状況か。

「はぁ……わーったよ、俺も付き合えばいいんだろ?」
「やったー♪」

面倒だが、俺も参戦することになった。
余裕綽々な俺たちの態度に、貴族の怒りはますます膨れ上がる。

「ぶっ殺せ!」

短く、ただそう命令した。
やれやれ、それが貴族サマが使う言葉づかいかよ。