ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.41 )
- 日時: 2013/09/22 19:05
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: Q4WhnRbg)
Chapter 4.
3
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「アーテル、どうする?この人たち」
「な〜、全員ブッ殺しちゃおうぜ?」
ロッソとルージュがそれぞれ聞いてきた。
とりあえずルージュはスルーし、ロッソに言った。
「とりあえずお前はアスールたちとグラウの家に戻っていてくれ。あとは俺たちが何とかするだろ、たぶん」
「承知、っと」
いつかの魔導師の使え魔の真似だろうか?ロッソは言いながらもアスールとクローロンを引率して逃げた。
「あ、おい待てお前ら!」
その後を追いかけていきそうになった黒服たちだが、ルージュが片手だけの動作でマシンガンを地面に降ろし道をふさいだ。
「はーい通行止め〜。通りたいならアタシと力比べでもしようぜ?オッサン」
もはやルージュの怪力の脅威は周知の事実である。
それよりかは、一見すればなよなよした細い体つきの俺やガキのシーニーのほうを相手にしたほうが有利、とでも考えたのだろう。
「くそ!お前、そこどけ!」
一斉に黒服が襲い掛かってくる。
2人が同時に、まず俺の動きだけでも封じようと手を伸ばす。
「……ったく、男がベタベタ触ってくんな。気色悪い」
俺は片方の奴の手をこちらから掴み上げ、そいつの片腕をもぎ取るくらいの力で捻った。
ゴキ、とそいつの肩のあたりで妙な音がなる。
悲鳴をあげる暇も与えず、俺はソイツをそのまま横に薙ぐように振り回した。もう一人の黒服に見事にヒット。
あとはもう数人ほどか。
「シーニー!」
「はいはーい」
トコトコと寄ってきたシーニーの、首根っこを掴んで俺は適当な黒服の男に近寄る。
「な、なんだ?」と戸惑うそいつを無視し、俺はシーニーの顔に手をかざした。
そして、
ぶしゅ。
二本指をたてて、シーニーの両目に突っ込んだ。
片方の目玉はゴロリとこぼれる。海のような青い瞳が、どす黒い赤で見えなくなった。
「う、うあああぁぁっ!?」
悲鳴をあげたのは、間近でそれを見せつけられた男の方だ。
俺はすぐにそいつの腕を、シーニーの目に突き刺していないほうの手で掴んだ。
ぶしゅ。
先ほどの音を再生したような、全く同じ音が聞こえた。
次の瞬間、両目を抑えてうずくまる男。
「ふぅ、ゴミとれた♪」
すっかり治った両目をグルリと回して、シーニーは無邪気に笑った。
マシンガンの上に座って腕組みし、高見の見物をしていたルージュもそれを見て「ぎゃはは!」と楽しそうに笑う。
「ほんっと、いつもえげつねぇよな。アーテルの戦い方ってさぁ」
「悪いか?俺は使えるモンを有効活用しているだけだが」
「いや、悪くはねぇな。むしろアタシは好きだ。まじで」
「そりゃどうも」
シーニーの目玉を潰した際、血が付いてしまった人差し指と中指を大きく振って血を吹き飛ばした。何か白っぽい……白目らしきモノも付着していたが、それも地面に叩きつけるように手を振って落とした。
シーニーは、その間に黒服たち——もはや最初の大人数は見る影もなく、2,3人の少人数になってしまったそいつらに話しかけていた。
「ね、まだ遊ぶー?オジサンたちはまだ戦ってないから、体力も余ってるよね♪それならたくさん遊べるよね?」
戦意喪失した黒服は、怯えて首を横にブンブン振って否定するだけで、何も言わない。いや、言えないのだ。言葉を発するにも、舌の呂律が回っていない。
すると、その中でもまだ一応、気を確かに持っていたらしい奴が尋ねてきた。
「お前らは……なんであんな奴の味方なんだ!?あの科学者が、お前らに何か報酬でもくれてやったのか!?」
「アスールのことか?」
俺はちょっと考えてから、逆に質問した。
「なぁ、逆にさ。お前は……というか、お前を雇ったやつは、なんでアスールを狙ってるんだ?あいつは何か心当たりもあったみたいだが」
すると、怯えながらもそいつは答えた。
「当たり前だろ!あんな……異常者の分際で、のうのうと国立の研究所で働いて金稼いで、好き勝手に研究をしているなんておかしい!俺たちの雇い手……『先生』のほうが、よっぽどあんな女より優れているはずなんだ!!!」
たまに聞き取りにくい箇所もあったが、なんとかそう聞き取れた。
つまりはアレか。
こいつらを雇ったのは、とある科学者。で、その科学者を、少なくともこいつは『先生』と慕っていた。
で、その科学者がアスールの功績を妬んで刺客を送った、ってことか。
その後も、そいつはうわごとのように続ける。
「そもそも、なんで科学界にあんな奴なんかが進出してくるんだ……!科学っていうのは、女なんかが関わっていいことなんかじゃねぇんだよ、あの尼が……!」
……ん?
え、『女』?
「……おい、ちょっと待て」
「ひっ!?な、なんだよ?」
俺は思わず、先ほどからベラベラ喋るそいつに一歩近づいて、聞き返した。
「お前、今アスールのことを話していたんだよな?」
「へ?……そ、そうだが」
ルージュの方を見ると、同じように奇妙な顔をしている。
シーニーを見下ろした。
「あ、そっか〜。みんな知らなかったっけ?」
「……何を?」
「ハカセさんって、女の人だよ。クローロンちゃんが『秘密ですよ〜』って教えてくれたよ〜、さっき♪」
あのさ。
早く言え!そういうことは!!
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.42 )
- 日時: 2013/09/22 19:45
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: Q4WhnRbg)
Chapter 4.
3 side azul -アスール-
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「それにしても災難だったねー」
わたしの前方を歩く少年……ロッソと呼ばれていた彼は、振り向かずにそう話しかけてきた。
「すみません、巻き込んでしまったようで……」
「気にしないでって。この辺りに住んでいれば日常茶飯事だから」
わたしの隣を小走りについて行くクローロンが、感心したように「日常ですか!すごいですね〜」とのんびり言った。
それにしても、とうとうあちら側もなりふり構っていられなくなったのか。
わたしが、政府の目の届かない辺境へ派遣されたのをいいことに、即座に刺客を送ってくるなんて……。
(本当に、変わってしまった。アズラクも、わたしも……)
刺客を送ってきた人物に見当はついている。
アズラク。わたしの、過去に別れた夫である。
わたしがまだ科学者でありながら女性らしく振舞っていた頃、愛し合った人物。そして、
わたしの娘、『クローロン』を殺した憎き男。
「ここまで来たらもう歩いても大丈夫でしょ」
「そうですね〜」
ロッソ君とクローロンがそう会話して、小走りで駆けていたわたしたちはスピードを落とした。
先ほどのシンザさんの家からは、思った以上に離れていたようだった。
「博士」
急にクローロンに話しかけられ、わたしは少し反応が遅れた。
「ん?どうしたんだいクローロン」
「大丈夫ですよ」
?
意味がわからずクローロンを見返すと、クローロンはニッコリ笑った。
「アーテルさんもシーニーさんも、ルージュさんロッソさん、みんないい人です!心配することは何もないとロンは思うのです。博士の『最高傑作』が言うのですから間違いないですよ〜」
どうやら、考え事をしていたせいでこわばった顔になったわたしを、心配してくれたようだった。
フッと笑い、わたしもそれに同意した。
「そうだね。ありがとう、クローロン」
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最高傑作、とはよく言ったものだ。
本来は、ただの欲深い『母親』が己の欲望のために造っただけの人形だというのに。
娘を人体実験に使い、そして殺してしまったアズラク。
わたしは彼と決別した後もたった一人の娘を亡くしてしまったことを悔やみ、悲しみに暮れた。
それでも立ち直ることはできず、娘と同じ——全く同じ容姿の人形を造ってしまった。
同じ髪、同じ瞳、同じ顔、同じ身長同じ体重同じ臓器同じ骨同じ声帯同じ…………。
気が付いたときには、その人形は目を覚ましていた。
わたしの、能力だ。私はもはや人形ではなく、『一個の人間』を造り上げてしまった。
皮肉なことに、その『作品』は高く評価され、わたしは当初最も優秀な科学者と呼ばれていたアズラクを押しのけて喝采を浴びた。
それでもわたしの気は晴れない。
わたしは今でも、生きていた頃の……人間の、本物のクローロンを懐かしむ。
そんなわたしの胸中を知ってか知らずか。
ロボットのクローロンは、日を増すごとにあの、過去のクローロンと似てくるのだ。
シーニー君と無邪気に遊んでいたときのクローロン。
ロッソ君と会話をするクローロン。
それは、本物のクローロンが生きていた頃、他の友達とそうしていたのと全く同じ光景だった。
もはや、わたしには『本物』がいったい『何』だったのかが、わからない。
ああ、いけない。
優秀な科学者なら、わからないと安易に言ってはいけない。
でもワカラナイ。もう思い出せない。
クローロンはアズラクに殺された。
だから『造った』。
でもあれは本物ではない。
それなのに、その人形を本物の娘だと思い込みたがる自分もいる。
わたしは————……。
「おーい、ハカセさん?」
「博士!どうしたのですか〜?」
ハッ、となった。
いつの間にかわたしは立ち止まっていたようだ。
「あ、すいません」
「いや大丈夫だけど。なんかボーっとしちゃってるね、ハカセさん。風邪?」
「いえ〜、博士は朝からバッチリ健康状態でしたよ」
クローロンとロッソ君に簡単に謝って、わたしは小走りで追いかけた。
「もう、気を付けてくださいね〜、博士!」
笑うクローロンは、誰かに似ていた。