ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.46 )
日時: 2013/09/23 12:03
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: Q4WhnRbg)

Chapter 4.

4

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「ただいま〜っ」

再びグラウの家に戻って、シーニーが真っ先にそう言いながら玄関に入った。

「あ、お帰りなさいです、シーニーさん!」

すでにそこにいたクローロンが、笑顔で出迎える。
なんだろうな、ままごと遊びで夫婦役でもやってるように見えるな……。

アスールは俺とシーニーに、まず最初に謝ってきた。

「本当にすみませんでした。迷惑をかけるつもりはなかったのですが……わたくしの不注意です」
「え〜、そんな謝らなくてもいいよー」
「お前は気にすんな。あの胸糞悪い連中が自業自得だ」

結局、先ほどの黒服たちは、数人を残して後は全員殺した。
残した数人……3人しかいなかったが、そいつらは雇い主に送り返すことにした。報告をする奴だけでも残しておかないと、あきらめないかもしれないしな。
そのことをアスールに伝えると、彼……彼女は、「そうですか」と、何か感慨深げに言った。

ある程度の報告が終わったところで、俺は単刀直入だが尋ねた。

「お前さ。なんで『男のふり』なんかしていたんだ?」
「……あの人たちから聞きましたか」

「え、ちょっとどういうこと」と後ろからロッソが聞いてきたが、ルージュに「はいはーい子供はあっちで大人しくしてよーぜ」とどこかへ連れ去られた。なんとなくを察したのか、シーニーとクローロンも後を付いて行った。
俺は続ける。

「お前が自分は女だって名乗らなかったのはわざとなんだろ?まぁ別に責める気はねぇが、なんでなんだ?」

そう、俺が疑問に思ったのは、純粋にそれだけだ。
なぜ性別をわざわざ偽る必要がある?ルージュだってしょっちゅう男と間違えられるが、自分が女であることを隠したことはない。その証拠に、一人称は『アタシ』と呼んでいる。

アスールは、少し考えた後に答えた。

「アーテルさん。この町は、いいところだと思いませんか?」
「あ?……あぁ、まあ。暮らしやすいっつう点ではまぁ、な」
「都会は、ここよりずっと汚れています」

表情は変えず、やはりあのどこか笑ったような顔で淡々と続ける。

「平気であらゆる人たちが、あらゆる方法や分類で差別をするのですよ。ノーマルとディヴィアント、貴族と貧民、……男女差別も、その比ではありません。女性が社会の中で生きていくのは、かなり大変なのです」

水面下でいろいろ迫害も受けますし、と苦笑して付け足した。

「だから、例え戸籍上ですぐにバレてしまうとしても、わたくしが科学者である限りは『女性らしい』行いや振る舞いはいっさいできません。科学とは全く関係のない『理由』で、科学界から追い出されてしまいますから」

俺はよくわからなくなって、聞き返した。

「なんでそんなんで追い出されるんだ?お前、クローロンを造ったくらいなんだから頭めちゃくちゃいいんだろ?だったら女でも関係ねぇじゃねーか」
「アーテルさんのように柔軟な思考を持つ方が、都会にはいないということですよ」

アスールは、この状況をほとんど諦めたような風で言った。
俺は、なんとなくそんな彼女に、戦地で戦う女性の面影を見たような気がした。

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しばらくして、俺とアスールを呼ぶガキどもの声が聞こえた。

シーニーが、グラウの手を引いてこちらへ連れてくるところだった。

「いやー、悪ぃな!客人を待たせちまったようで、ガハハ!」
「グラウさんですか。いえ、お気になさらず。お仕事お疲れ様です」

やっと鍛冶仕事が終わったらしかった。
俺は、座ったグラウに何の気もなしに話しかけた。

「随分長くかかったな?何の鍛冶をしてたんだよ」
「武器の手直しだ、お前も知ってる奴の依頼さ。まーた刃がボロボロに欠けててなぁ、ったく、もうちょい丁寧に扱えっちゅうに」
「……あぁ。ルーフスか」

グラウの仕事の依頼人は、どうやら俺の友人らしかった。
そういえばアイツも、しばらく会ってないな。また今度、機会でもあったら遊びに行ってやるか。

双子が俺に、さっきアスールと何を話していたのか気になってしょうがないという目を向けてきたが、適当に無視しておいた。
ガキどもはまたガキ同士で遊んでいろ。