ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.47 )
日時: 2013/09/23 12:46
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: Q4WhnRbg)

Chapter 4.

5

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クローロンは、やはり誰に対しても人懐っこい性格で、双子ともすぐに意気投合した。
ロッソの(かなり理解しがたい)芸術論に相槌を打って、本当に理解してしまっているし、ルージュの(かなりえげつない)破天荒な武勇伝を本気で面白そうに聞き入っている。

ロボットも成長するのだとしたら、将来はあらゆる異性から大人気になること間違いなしだな。ある意味。

ふと気になったのか、クローロンはグラウの能力についてちょっとした興味を持った。

「そういえば、シンザさんは『お掃除』でしたが〜、グラウさんは何の能力をお持ちなのですか?『お料理』ですか?」

それを聞いたグラウは、調査用紙を吹き飛ばすぐらいに爆笑した。

「オレが『お料理』かい!面白いこと言うなぁ嬢ちゃん、ガハハ!」

……事情を知っている俺や双子にとっては、笑いごとではない。
グラウの手料理は、ある意味では国宝級の『殺戮兵器』なのである(要するに不味い。ものすっごく不味い)。

一人だけ、唯一その殺戮兵器な味を耐えきった、強靭な伝説の舌を所持するシーニーがクローロンに教えてやった。

「グラウおじさんはねー、『鉄壁』っていう能力なんだよ!カッコイイよね〜」
「てっぺき?ですか〜」

グラウは、体のあらゆる箇所に打撃を受けても通じない能力である。
まぁ、一応『痛い』という感覚……痛覚は存在するのだが、決して死なないし出血もしない。
だからこそ、シンザも心置きなくフライパンで殴れるというわけだ。
……ノーマルの人間をフライパンで殴ったら間違いなく死ぬからな、ホント。

グラウは豪快に笑いながら、シーニーの説明を補足するように言った。

「まぁ、打撃技ならオレは無敵だな!その代り、刃物や熱にはノーマルとおんなじ位しか耐えきれんが。ガハハ!」
「そうなのですか〜、強いんですね!」

クローロンは素直に「すごいすごい」と言っていた。

——やはり、こんな子供がロボットだとはなかなか思えない。
だが、アスールが嘘をつく理由もなければ、先ほどの刺客もその証拠になる。やはり、本当にこの子は機械なのだ。

(なんだかなぁ……。都会ってよくわかんねぇわ)

とりあえず、俺はそう思っておくことにした。

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すっかり日も傾き、夕方になったころ。
いくつかのアンケート結果を回収したアスールは、クローロンと帰り支度を始めていた。

「え〜、もう帰っちゃうの?」

シーニーが言うと、アスールは名残惜しそうにしながらも「今日で滞在は最終日だったので……」と言った。
クローロンも、もう少しここに残りたいと思いつつもアスールから離れるつもりは毛頭ないらしく、やはり彼女に従っている。

双子も玄関まで見送りに来た。

「今日会ったばかりでも、別れは割としみじみするものだね」
「だなー。また来いよな、ハカセにクローロン!」

アスールは、「ここは本当にいい人たちばかりですね……」と嬉しそうに言った。
そして、彼女は俺にこう話しかけてきた。

「アーテルさん。わたくしは、ディヴィアントの生態を調査していますが……わたくし自身は、ノーマルもディヴィアントも、能力以外は本当に何も変わらないと思うんです。ですから、それを証明して、わたくしは……」

アスールは少しためらうように一呼吸おいてから続けた。

「わたくしは、その結果をもとにディヴィアントの差別社会を無くしたいとも思っているんです」

……うまくいくと思えますか?付け足すようにそう尋ねてくるアスール。
俺は、こう言ってやった。

「まぁ、そういった小難しいこと俺にはよくわからねぇけど……なんとかなるんじゃね?お前くらいの奴だったら」

アスールは、こんな適当過ぎるいかにも馬鹿っぽい解答に、なぜかその表情を嬉しそうにした。

「ありがとうございます。アーテルさんにそれくらい言ってくださったら、確かになんとかなるように思えてきました」

……ま、ポジティブなのは何よりだ。

最後に、クローロンがシーニーに、少し言い出しにくそうに尋ねた。

「あの……今日、ロンはとっても楽しかったです。シーニーさん、もしロンや博士がまたここに来たら、一緒に遊んでくれますか?」

なぜそれが言いにくそうなのかは分からなかったが……もしかしたら、この少女はロボットなので、こういった子供同士のコミュニケーションに慣れていなかったからかもしれない。
だが、そんな心配をシーニーはいともあっさり吹き飛ばした。

「当たり前だよー。だってクローロンちゃん、もう僕たちの友達じゃん!」

クローロンは少しびっくりした後、すぐにまた笑って、

「はい!」

元気に返事をした。




こうして、俺たちには新たに友人ができたようだった。
離れた都会に住む2人。
会える回数は少ないどころか、また再開できるかどうかすらも定かじゃないが……。
今日一日の出来事自体は、まぎれもなく存在した事実だ。

「また会えるといいねー、あの科学者とロボット」

ロッソが言うと、ルージュが隣で言いなおした。

「『母子(おやこ)』じゃねぇのか?それ言うなら」