ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.48 )
日時: 2013/09/23 20:18
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: Q4WhnRbg)

Chapter 5.

1

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「朝だー!起きろーっ」

ぼす。

えい、とダイブしてきたシーニーは、俺の腹の上に見事に着地した。

というわけで、俺は今、絶賛悶絶中である。

「お前は!!昨日の夕飯戻しそうになっただろうが!それくらい考えろこの馬鹿!!」
「いえーい起きたー♪」

あー、これは駄目だな。
このガキは悪魔だ、ほんと。

「ということでもう一発」
「殺す気か!ブッ殺すぞ!」
「アハハおもしろーい♪」

- - - - -

「くそ、酷い目に会った……朝っぱらから……」
「ガハハ!お疲れさんって感じだなぁ、ええおい?」

脇腹を抑えながらグッタリしていると、シンザが朝食を運んできた。
今日はピザ風トーストとサラダだ。俺の要望で朝は大体毎日トーストなこの一家である。
隣でシーニーが、具材にピーマンを使っていることに文句を言ったがシンザに「おらおら」と口に詰め込まれて目を白黒させていた。ザマぁ。

俺がピザトーストをもそもそとかじっていると、思い出したようにグラウが話しかけてきた。

「そういえばアーテル、今日も特に予定はないか?」
「ん?ああ。安定の暇人だが。なんか依頼でも来たのか?」

ちょっと期待を込めて尋ねたが、返事は「いや、来てない」だった。
その代り、グラウは別の仕事を俺に頼んできた。

「昨日オレが治した武器、アレを届けてくれねぇか?お前のダチだろ、久々に遊びに行くついで、って感じで頼まれてくれ」

どうやらおつかいのようだ。

「別に構わねぇけど。グラウはなんか忙しいのか?」
「おうよ。治す依頼をもらった時は、オレがアイツのとこに直接出向いたんだがなぁ、今日はちと、オレが動けねぇ」
「そうか。まぁしょうがないな、アイツの家無駄に遠いしな」

断る理由もないので、俺はそれをあっさり引き受けた。
やっとピザトーストを何とか飲み込んだシーニーが、遅れて「僕も行く!」と言ったのは言うまでもない。

- - - - -

これを頼んだ、と渡されたその武器は、俺の身長の3分の2はあった。
かなりデカいそれは、剣だった。
幅だけでシーニーの胴よりまだ広く、直径が俺の胸あたりまでになる。
大きさに合う鞘が無いらしく、それは包帯で包まれただけのかなり危なっかしい物だった。

「諸刃だから気ぃつけろよ?」
「鞘も作ってやればよかったんじゃ……」
「馬鹿野郎、それじゃ予算と合わねぇんだよ」

とりあえずそれを背負ってベルトで固定し、俺とシーニーはその日グラウの家を後にした。

「ねぇ、アーテルの友達ってどんな人なの?」

しばらく歩くと、シーニーが尋ねてきた。

「ガキの頃に知り合った奴だ。『見た目は若いがかなりジジ臭い喋り方をする変な奴』とでも思っておけ」
「ふーん、変わった人だね〜」

数時間をかけて、俺たちは町を出た。
そして、町の近くにある山に入っていく。この奥に、ソイツの住処がある。

かろうじて獣道らしい道がうっすらできているが、見失うと冗談抜きで命に関わるので気は抜けない。
藪をかき分けながら、俺はどんどん進んでいった。後ろをシーニーがトコトコと付いてくる。

やがて、家を出て半日ほどがたった頃。
ちょうど太陽が真上にきて、昼時になった時、突然目の前が開けた。

木々は伐採されたように、というか伐採されてそばに積み上げられている。
緑が生い茂る山の中、ここだけぽっかりと開けた大地が広がっていた。
斜面もあまりなく、ちょうど平らで歩きやすい。
そんな広場のような場所の中央に、その家はあった。

山小屋、と呼ぶには少し大きいその家。
俺はとくに迷わずにそこへ向かった。シーニーはここへ来るのが初めてだからか、いつもより控えめに後ろから付いてくる。

ドアをノックすると、中で物音が聞こえた。
しばらくその場にいると、突然のぞき穴から真っ赤な目がギョロリと覗く。
俺はその赤い目に向かって、手を軽く上げて挨拶した。

「よう。久し振りだな、ルーフス」

覗き穴はすぐに閉じ、次に間髪入れず木製のドアは開いた。

「久しいのう、アーテル!よう来た、上がりんさい」

歳を食った爺さんのような話し方をするソイツ——ルーフスは、満面の笑顔で俺を迎えた。
隣でシーニーが、

「わー、本当にお爺ちゃんみたいな人!」

と真っ正直に言った。ルーフスはそんなシーニーを見つけて、まず不思議に思う前に豪快に笑った。

所々くせっ毛のある黒い髪、血のように赤い瞳、そして……



どこからどう見ても、俺より年下のそいつ。



今年で『身体は16歳になる』ルーフスは、シーニーのことを俺に尋ねた。

「正直な男子(おのこ)よの。儂の知らん間に子なぞ産ませたのかえ?アーテル」
「いや息子じゃねぇから!?」

全力で否定した俺を見て、ルーフスとシーニーはまた笑った。
まずいな、これは……。この2人、気が合うぞ。


まぁ、そんなこんなで俺は、久しぶりに旧友と再会した。