ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.5 )
日時: 2013/09/17 03:35
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)

Chapter 1.

4

- - - - -

まず、相手の……傭兵?は、全員で6人いるようだった。
よくこれだけの人数があの馬車に収まったな、と思ったが、実際それ相応の大きさのある、結構デカイ馬車だったので無理な話でもないらしい。
まぁそれはともかく。

「アンだよ、ガキ3人ともやし1人だけかよ」
「ちゃっちゃと片付けてやるか」

気だるそうに傭兵どもは言った。
……つうか、お前らが無駄に身体がでかすぎるだけで一般人を『もやし』呼ばわりするなよな。
同じことを思ったらしいシーニーが、さっそく

「実力も知らないのにアーテルにそんなこと言っていいのー?」

と、純粋に疑問気な様子で尋ねた。
はい、もちろん傭兵の堪忍袋ぶっちぎれました。

「まずはテメェからだなガキィ!!!」

メイス、というかトロールが持つような醜い棍棒を振り上げながら、3人ほどがシーニーに攻撃を試みた。
ガキ1人相手に3人とか、もはやどちらがガキなのやら。
とりあえず俺は、シーニーからちょっと離れておいた。
傭兵の棍棒がブンっ、と振られて、




ぐちゃぁっ




シーニーの頭は一瞬で粉砕した。
ベシャ、だのグシャ、だのといった音をたてて脳汁が飛び出し、真っ赤な噴水がイルミネーションのように吹き上がる。
ゴロリ、とシーニーの青い目玉の片方が半壊しつつも俺の足元に転がってきた。うわ、目ぇ合った。気色悪い。

「ハッ、生意気な口たたくからこうなるんだよォ、クソガキが!」

下ひた嗤いを浮かべた傭兵は、今度は俺の方へ向き直った。

「ギャハハ!次はお前だァ!!!」

はぁ、と俺はため息をついた。
俺は傭兵に、『最後の警告』を——面倒だがしておいた。

「いいのかよ?後ろ」
「あぁ?何が……」

傭兵のうち1人が言いながら振り返って、言葉を失った。
気づいた2人も振り向き、「な、ハァ!?なんで……!!」とかなんとか、ありきたりに驚いた。

そこには、

「んも〜、痛いなぁホント」

そう言いつつ、頭をポリポリかくシーニーがいた。
その足元には、先ほどぶちまけた脳漿や血液、目玉の片方も転がっていた。けして、さっきのが幻だったわけではないことを表している。

戸惑う傭兵たちに、シーニーは一歩踏み出した。
ちょうどそこにあった、『元・シーニーの目玉』だったものが踏んづけられてクチャ、と潰れた。
シーニーはニッコリ、無邪気に傭兵たちに笑いかけた。

「オジサンたち、力はあるんだね〜♪結構痛かったよ、今の」

そして、言う。

「じゃぁ次、『僕たちの番』!」

それを合図に、俺は動いた。
背中がすっかりがら空きになった傭兵の1人を狙い、左手で背骨を折った。
ポキ、と小枝でも折れるような手ごたえが左手に残る。

「ぐがっ!?」

まずはその1人がぶっ倒れた。隣にいた傭兵が「うわぁっ!?」と飛びのく。おいおい、さっきの強気は宇宙の彼方にでも旅行に行ったか。

「お、おお前もディヴィアント、なのか!?あのガキと同じで!?」

震えた声で傭兵は言った。
俺は、左手をさすりながら言った。

「まぁそうだが、今のは俺の能力じゃない。ただの格闘技だ」

つうか、地味に左手痛い。うん、ヒトの背骨は迂闊に折っちゃいかんな。

シーニーは心底楽しそうに笑っていた。

「あはは、遊ぶのってホント楽しいよね〜オジサン!ほら、次オジサンたちの番だよっ。早く続けようよ〜、『戦争ごっこ』!」

言いながらシーニーは、手にちょっと付着した、先ほどの名残である自分の血を、ドロ遊びをしている子供の用に自然な動作で服で拭きふきした。
そう、なんであれ、シーニーにとってこれら一連のことは遊びでしかない。彼は心の底から、狂気でも気違いでもなく純粋にこの『遊び』を楽しんでいるのである。

俺?俺は……服が汚れるからあんまり楽しくないんだがな。

と、そんな俺たちに、すっかり忘れていたがあの赤髪双子が声をかけてきた。

「そっち終わったかい?ボクたちの方、もう終わったんだけれども」
「ンだよもぉ〜、ぜんっぜん手ごたえねえじゃん!つまんねーの……」

なぜか身長の2倍はあろう、巨大マシンガンを肩に担いだルージュは唇を尖らせながら愚痴ていた。
一方ロッソは、いつも持ち歩いている水筒から冷水を両手にぶっかけていた。ロッソの両手は一見普通のように見えて……冷水をかけられた箇所から、ジュゥゥ……と煙が上がっている。まるで熱した鉄だ。
俺は呆れながら言った。

「3人をヤるだけで、どんだけ能力使ってるんだよ……。そういうの『無駄遣い』って言うんだぞ?」
「いいじゃん、減るモンじゃないし」

シシッ、とルージュはイタズラが成功したように笑った。
とたん、彼女が持っていたマシンガンは、『パリンッ』とガラスが割れるような音をたてて消失した。

ちなみに、さっきからロッソとルージュの後ろには、
文字通り蜂の巣にされた傭兵3人が、赤い湖の中央に奇妙なオブジェのように折り重ねられていた。
それぞれが、手足を曲げたりと変なポーズをとっている。まぁ、これはあの2人が『ヤった』後に勝手に弄ったのだろう。相変わらず悪趣味なトリック(イタズラ)だ。

と、いうわけで。

俺たちの前には、すっかり戦意消失な生き残り傭兵2人と、同じ様子な貴族と従者が残った。

さて、どうするか……。
ガキ3人は全員、まだ全然遊び足りなさそうだ。というかシーニーはともかく、あの2人はどんだけ暇人だったんだよ……?

「ひ、ヒィィ……っ」

傭兵の1人が、間抜けに怯えた風で、逃げ出そうとした。

「あー、待ってよオジサン!もうちょっと遊ぼうよ〜っ」
「うあああぁぁ、来るな来るな来るな!!!」

服は血で汚れきっているのに、全く外傷のないピンピンしたシーニーを、傭兵は本気で化け物を見る目つきで恐れた。
それを皮切りに、他の3人も逃げ出そうとした。
そして当然のように、それを追いかけようとシーニーも双子も動き出して、



「ハイハイ、そこまでにしやがれっつうの」



ガシっ、と双子の襟首を後ろから掴む太い腕。

「うわっきゃ」
「ごふぁっ」

ロッソとルージュは喉が詰まって、それぞれ変な悲鳴をあげた(もちろん最初の「うわっきゃ」がロッソである。……ルージュ、せめて悲鳴くらいは可愛らしくできないのか)。

俺は、その双子を掴んだ人物を見上げた。

「グラウ?」
「よぉアーテル。ガキ3人のお守りお疲れサン、って感じだな。ガッハッハ!」

相変わらず豪快に笑うグラウに、さらに後ろからフライパンが『投げられて』頭にヒットした。

「いっ!?」
「笑ってる場合じゃないでしょうが!早く『依頼人』抑えてきなさい!」

フライパンを投げてきたのは……グラウと同じ、銀色の髪を後ろで縛った強気そうなオバ……女性だった。そう、彼女こそがグラウの配偶者・シンザである。
シンザはフライパンの痛みにひたすら耐えるグラウと、その彼に必然的に振り回される形になった双子をサクっと無視して俺の方へ来た。

「アーテル、ちょっと悪いんだけどとりあえずあの『あほんだら貴族』どもを連れ戻してくれないかい?」
「あいつらを?……まぁ、事情は知らないがいいけど」
「頼むよ。あたしとこのバカ夫は『掃除』だけしておくから」

そういって、シンザはハァ、とため息をついて辺り一帯を——傭兵の死体・計4体と、シーニーの『残骸』を見回した。
……相変わらず気苦労の多い方だ。

とりあえず俺は、逃げ出した貴族一行と、それを追いかけて行ったシーニーをさっさと連れ戻すことにした。